「お店に来ると小さい子はまず、自分が持っている絵本のところに来る
面白いって知っているからだ
幼稚園にある絵本を見つけて、欲しい!となることもある
面白いって、知っているからだ。
読んだことない絵本にしなさい、なんてナンセンス
大人だって定食屋で毎回違うメニューを注文出来やしないのだ」
絵本を例に、親御さんたちにとってハッとする言葉を発信したツイートに注目が集まっています。投稿主にお話を聞きました。
発信したのは、東京都武蔵野市吉祥寺にある絵本の古本屋MAIN TENT(メインテント)さん( @maintent102)。東ヨーロッパ、北欧、アメリカ、アジアなどの原書や、絶版のものや戦前のもの、そして今の絵本まで、常時店舗には5000冊ほどが揃い、0歳から100歳まで楽しめると謳う絵本専門古書店です。
オーナーであり、絵本蒐集家でもあるフランソワ・バチスト氏こと、冨樫チトさんの言葉に共感の声が寄せられています。
「数日前、書店で『その絵本は図書館にあるでしょ。他のにしなさい』っておっしゃってるお母さんを見ました。心の中で『欲しがってる、その絵本を買ってあげて~~~』と祈りました」
「わかります。安心しますよね。大人でもなかなか冒険できないです」
「お気に入りの絵本を何度も何度も繰り返して読んで、心に全部写し終えて、いつしか卒業していくんですよね。大人になっても、大好きだった絵本は見つけるとついつい手に取ってしまう。本ってそういうものですよね」
「大人から見たら同じ内容でも、子ども目には違う絵本」
「とても共感する。子どもの中では、ほぼ『読む』と『買う』が分離されていなくて、書店でも図書館でもふるまいは変わらない。未分化なままの全体感としての本の面白さを、一番知っているということかもしれない」
フランソワ・バチスト氏にお話を伺いました。
面白い絵本、欲しい絵本を大人に教えてくれているチャンスを逃さないで
――ツイートに説得力がありました。
常に思い続けていることの一つです。お店では、そういう場面に遭遇することは頻繁にありますし、その度に残念に思います。子どもが面白い絵本、欲しい絵本を大人に教えてくれているチャンスを、みすみす逃してしまうわけですから。
――やはり馴染みのある絵本や見た事ある絵本には安心や愛着がある、と。
新しい世界を広げるのはとても大切ですが、絵本は繰り返し読むことによって発見することもたくさんあります。広くなるのではなく、深くなることもあるのです。また、何度読んでも変わらない結末に、安心感を覚えることもあります。大人と違い、知らないことの方が多い世界で日々を過ごす子どもたちには、変わらない世界があることはとても大切なことです。
――別の日のおっしゃられた「子どもの本棚を、理想の本棚にしないこと」の言葉も印象的です。
「良い」とされる絵本で固められた本棚にはやはり多少の無理が生じます。「ちょっと親の趣味じゃないな」という絵本や、プリンセスやヒーローものの絵本だって本棚に並んでいて当然なのです。
絵本は「絵をよむもの」…どう選べばいい?
――絵本の選び方、ぜひ教えていただきたいです。
一番シンプルなのは家族それぞれが絵本屋さんで一冊ずつ買うこと。そしてそれについてはお互いに干渉しないこと、が良いと思います。読ませたい絵本は親が自分で買えばよいし、読みたい絵本は色々言われずに買ってもらいたいですよね。
――親が選ぶときは?
絵本は「絵をよむもの」です。文字がまだ読めず、開いたページの絵だけを純粋によめる、いわゆる“魔法の時期”の選び方としては、「絵をよんだだけでちゃんと伝わる絵か」「よめる絵か」を基準に。またその時期は、音として子どもの中の入っていくので、黙読ではなく、一度音読し、リズムなどを確認してから選ぶとよいと思います。
逆にもったいないなと思うのは、図書館で何度も借りるお気に入りの絵本だけを買うスタイルです。気に入った絵本を買うことも大事ですが、「よく読むから無駄遣いにならない」という考え方ではいけません。
高い砂山を作るには、広い土台が必要です。絵本には賞味期限がありません。出会うタイミングによってはその絵本の面白さに気づかないこともあります。「本棚にあったけど読まなかった絵本」という認識さえあれば、大人になったときに、手に取ってみようというきっかけにもなります。本棚になければその貴重な情報にアクセスすることもできません。買ったのに読まない、その絵本に触れる機会を失うことのほうが、よほどもったいないことに思います。
おすすめの絵本の選び方については、『MAIN TENT流絵本のすすめ』というZINEを近日中に発行予定で、そちらにまとめています。
――参考になります。MAIN TENTに来られるお子さんたちはどのように絵本を選んだり、過ごしていますか?
小さな椅子に腰掛けたり、表のライオンに乗ったりしながら絵本を読んでいます。カウンター下部に造った受け渡しのポストは子どもたちに大人気です。最近では店内にいたお子さんが「ああ~いいお部屋だねぇ」と言っていたのが最高でした。「部屋に見える」ということがなんだかとても嬉しかったです。
絵本は「よむ」と同じくらい、身近に「ある」が大切
――バチスト氏が考える「絵本の関わり方」とは?
正直、絵本を一冊も読まなくても、子どもはすくすくと育つと思います。絵本は素晴らしいですが、なかったとしてもちゃんと生きていけます。効果とか、結果を求めず、親が絵本と向き合って、絵本の魅力の虜になればよいと思います。大人を面白がらせるだけのチカラが、ちゃんと絵本にはありますから。
そして、絵本は「よむ」と同じくらい「ある」が大切だということ。常に身近な手の届く場所、背表紙が目に触れる所にある、ということが大事だと思っています。そういう意味では絵本は、席替えしたり、ちょっとしたきっかけや20年後の同窓会で仲良くなったりするかもしれない、クラスメイトのようなものだな、とも。
――ツイートに多くの反響がありました。
共感される方が多いのには驚きました。絵本は「たくさん読んだ方が良い」「年齢に合わせて内容も文字数も成長した方がよい」などの先入観があり、おそらくそう考える人の方が多数なので。好きな方々に共感していただけることに勇気づけられました。
◇ ◇
知っている本やお気に入りを手元に置きたい気持ちは大人も子どもも一緒なのだとあらためてハッと気づかされた思いです。書店で、子どもたちがどんな表情でどんな本を手に取るのか…しばらく様子を伺ったり付き添ってみると新たな発見があるかもしれないですね。
MAIN TENTでは、ギャラリーの併設や様々な業種の方とのコラボ出店、選書サービスのスタートなど、実店舗と併行して様々な活動を精力的に行っている他、ヒューマンビートボックスAFRAさんを交えた絵本の読み聞かせ『カーテンアケロ』も不定期で開催。
「今後も思いついたことを、どんどん実現していきたいと思っています。この絵本屋も、読み聴かせもある日突発的に思いついたものなので。読み聴かせ『カーテンアケロ』はいつか舞台化したいです。また、今年はMAIN TENTからZINEを何冊か出します」とバチスト氏。絵本の買い取りは全国から郵送にて可能。「次の世代に繋ぎたい絵本、児童書を是非お預けください」とのこと。
【MAIN TENTさん関連情報】
■ZINE『MAIN TENT流絵本のすすめ』
絵本の古本屋を始めるに至る物語から、よい絵本の選び方まで。春頃発刊予定。
■ZINE『カーテンアケロ』
ストリートシーンと絵本を繋ぐZINE。メインコンテンツはスチャダラパーのBose、ヒューマンビートボクサーAFRA、バチスト氏の3人対談。3月発刊予定。
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