原油輸入、中東依存の日本 エネルギー安全保障の戦略は練られているか

治安 太郎 治安 太郎

昨年以降、世界や日本の関心はウクライナや台湾に集中している。ワイドショーや専門家を集めた報道特集でも、国際情勢はほぼこの2つの問題で独占されている。言い換えれば、これ以外世界で問題はないかのような意識され抱く人もいるかも知れない。

だが、今日世界を見渡せば、ウクライナや台湾の陰に隠れる形で静かに刻々と軍事リスクが高まる地域がある、それが中東だ。中東と言えばどうしてもテロのイメージが先行してしまうが、静かに刻々と増すリスクは国家と国家の衝突だ。

米国とイスラエルは1月23日から5日間の日程で大規模な合同軍事演習「ジュニパー・オーク」を行った。軍事演習には米兵6000人あまり、イスラエル兵1000人あまりが参加し、最新鋭の戦略爆撃機なども投入されて多様な訓練が行われた。軍事訓練の内容も重要だが、ここで最大のポイントとなるのは、「何を想定した訓練」だったかということだ。今回の軍事訓練で、米軍関係者は特定の敵を想定したものではないと言及したが、間違いなくそこにあるのはイランの存在だ。

今日、イランを巡る情勢は刻々と悪化している。バイデン政権は発足当初、イラン核合意への復帰を目指していたが、今日その動きは完全に頓挫し、イランは再び核開発に拍車を掛けている。そして、昨年秋以降、イランでは20代の女性が治安当局によって殺害された出来事をきっかけに抗議デモがイラン全土に拡大したが、イラン当局は市民へ容赦ない対応を取り続け、多くの死亡者・逮捕者が出るなどして、欧米諸国は人権面からイランへのいら立ちを強めている。

さらに、欧米とイランの亀裂を決定的にさせたのが、イランによるロシアへの軍事支援だ。イランは、ウクライナでの戦況で劣勢に立たされるロシアに対して自爆型ドローンを提供するなど、ロシアとの軍事的結束を強めている。イランはそうすることを見返りに、ロシアから核開発の面で支援を求める狙いもありそうだ。

イランは長年中東に点在する親イランのシーア派組織を支援しているが、イラクなどではイランの支援を受けるシーア派武装勢力が米軍への攻撃を断続的に続けており、米国のイランへのいら立ちは高まりばかりだ。

現在、米国がイランへの攻撃を計画しているわけではない。ウクライナへの軍事支援、台湾問題を中心とする米中対立で米軍に中東で戦争をする余裕はない。しかし、ここで懸念されるのがイスラエルの存在だ。

イスラエルとイランは長年の犬猿の仲であるが、イスラエルでは最近、極右のネタニヤフ政権が再び誕生した。イランが核開発を本格化させれば、ネタニヤフのイスラエルが核関連施設を限定としたイラン空爆を行う恐れがある。イスラエルは隣国シリアで影響力を強めるイランの存在を毛嫌いしており、同国にあるイラン権益への攻撃を繰り返しているが、イラン領内の攻撃となれば一気に中東の緊張の度合いがエスカレートすることになろう。同じくイランと対立するサウジアラビアのムハンマド皇太子も、以前イランが核も持てば自分たちも持つと言及しており、中東で核ドミノが起きる恐れもある。

日本は石油の9割を中東に依存するが、中東情勢を中長期的に見据え、エネルギー安全保障を戦略的に練っていく必要があろう。

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