こたつ記事もあり?「炎上ネタ」の真偽… Yahooランキング常連の「J-CAST」社長が考えるメディア論

メディアのこれから

山脇 未菜美 山脇 未菜美

政治にアイドル、世間の関心を集める「炎上ネタ」まで―。日々さまざまなニュースが配信される中、独自の存在感を示すのが、ネットメディア「J-CASTニュース」。2006年に参入した古株で、Yahoo!ニュースではランキング上位の常連だ。これまでの歩みや、気になるネットのあれこれについて、蜷川真夫社長(86)に聞いた。

2000年代のライバルは個人ブログ

――蜷川社長は朝日新聞の記者として海外支局などを経験した後、週刊誌「AERA」編集長を務め、1997年に59歳で退社しています。J-CASTニュースを始めた経緯を教えてください。

退職前は、朝日新聞デジタルの立ち上げにも関わっていました。インターネットで記事が伝達されることは1980年代から言われていました。将来はそれをやりたいということで退職、すぐにJ-CASTを創業しました。07年にJ-CASTニュースをスタートしましたが、スマホが普及し始めたタイミングです。

――どんなニュースを配信していましたか。

当時、ネットに載っていたのは大半が新聞記事の転用でした。それ以外で注目したのは個人ブログです。例えば、「きっこの日記」という匿名ブロガーは暴露記事もあるユニークなブログを書いていました。

スタート時は取材にお金をかけないように工夫しました。採算性を考えて我慢したのです。情報は既存メディアやネットで見つけて、電話で情報を確認して書く。当時としては珍しいことを書くから「炎上メディア」と揶揄されたこともありましたが、炎上を目指したわけではありません。新聞では小さくしか載らないネタにも注目して、拾って分かりやすく書く手法を取りました。週刊誌で1ページぐらいの分量の記事にしました。今ではネットではこのスタイル、仕様が定着したと思います。最初は1日2~3本しか出稿できなかったのですが、独立系の情報は珍しく1年で2000万PVを超えました。

海外特派員も「こたつ記事」だった?

――「炎上ネタ」は、顔がさらされるなど、世間の行き過ぎた「断罪」が見え隠れすることもあります。そのような部分をどう考えていますか。

「炎上ネタ」と世間で言われるものを全部否定することはできないと思います。書いたメディアが責任を持つことは必要ですが、既存マスメディアと取材や編集、発行の基準は異なって当然です。ネットメディアの責任とは言えませんが、個人が発信する情報を含めてネット社会の病理という面はあります。この問題は、学校、社会教育も含めて解決していくべきです。うちの会社の方針では現在、裁判で争いになるような記事や倫理に反するものはやらないようにしています。新聞のように攻め込む、週刊誌のように追跡する。これはまだ できません。分相応にやっています。

――取材に足を運ばず、こたつに入ったままでも書けるようなお手軽記事「こたつ記事」についても、賛否があります。最近は、SNSやテレビでの有名人の発言をまとめた記事も増えていますが…。

一概に悪いとは言えません。私も特派員だったので分かりますが、海外特派員は、テレビを見て「こたつ記事」を書くこともあります。ニューヨーク・タイムズがどう報道しているか、テレビでどう扱われているかを記者の視点で書くのが重要です。

ジャーナリズムの視点で「こたつ記事」は批判されるかもしれませんが、あらゆる好奇心に応えるという意味では、生活に近い情報、チェックしたい情報を提供することもメディアの役割です。取材を尽くした記事は望ましいですが、簡単な情報を粗末にする、馬鹿にするのは良くないと思います。上級な記事と下級な記事と分けて考えるところがマスメディアの一部にあり、それがネットメディア批判につながっているところがあると思います。

あるメディア学者に、読者がネットの記事をどう見ているかを取材しました。昔は記事を読んで意味を考えることが、思考のきっかけになった。でも今は、情報をチェックする接触法です。スマホで次から次へと記事を見て、読んではいない。

私は「好奇心には上下はない」と考えてメディアを運営しています。政治でも競馬でも、読む記事の対象によって「えらい」「えらくない」はない、という意味です。うちの記者は、そう思って記事を書いています。

読ませたいものを読ませる別の仕組み

――さまざまな企業がネットメディアに参入し、情報過多の時代となっています。今後、日本のメディアはどうなっていくと考えますか。

日本のネットニュースの流通は、ポータルサイトがメディアから記事を集めて流すのが主流となっています。読む人はどのメディアが書いた記事かはあまり関心がない。Yahoo!ランキングの上位はほとんどエンタメ記事です。Yahoo!側は、政治や国際ニュースも見てほしくて、トピックス(編集部が厳選する記事)に挙げる努力はしているけど、読者は応じてくれない。

記事を作る側、配信メディアは、ネット読者の読みたそうな記事だけを出すようになる。しかし、読みたい記事と読ませたい記事の両方が必要です。好きなものだけ食べると偏食になるように、偶然見つけた情報に素晴らしいものがあるのです。

今、Yahoo!を中心としたポータルサイトで、好きな物を食べる仕組みは出来ました。これはそれなりにいいことであり、読者の欲しいものを提供するというネット時代の情報流通に貢献しています。しかし、食べたほうがいいものも食べる仕組みもネット情報の提供環境は持つべきです。

新聞は読ませたい記事も多く載っています。新聞記者が読ませたい記事も書いています。これは素晴らしい行為ですが、Yahoo!ランキングで上位になることに結び付きません。ネットでも読ませたいものを読ませる、別の仕組みが必要だと考えています。言論の自由と民主主義の社会の基盤として、読みたい情報と読ませたい情報のバランスを実現出来る配信プラットフォーム構築が課題になるように思います。

蜷川真夫(にながわ・まさお) 1938年生まれ。東京大学文学部卒。朝日新聞社で社会部記者、ニューデリー支局長、週刊誌「AERA」編集長などを歴任。1997年に退社し、株式会社ジェイ・キャストを設立。著書に「ネットの炎上力」「デマ映えの民主主義」など。

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