なぜ日本企業は世界一『コミュ力』が低いのか 今と昔の仕事スタイルの解説本が話題

松田 義人 松田 義人

 

「若い人は会社勤務が続かない」「若い社員ばかりが辞めていく」と嘆く声を一時期からよく聞くようになり、「社内コミュニケーションに悩むリーダー」は年々増加傾向にある、とも言われています。

原因は「若手との価値観のズレ」「リモートワークによる物理的に離れた距離感」などさまざまだと思いますが、この多様化した価値観の時代に「困難を乗り越える組織」をつくるには、どうすればいいのでしょうか?

そんな中で刊行されたのが、『17万人のAI分析でわかった最強チームの条件を一冊にまとめてみた』越川慎司・著(大和書房)という本。

 

本書では、「なぜ日本企業は世界一『コミュ力』が低いのか」という章から始まり、17万人のデータから叩き出された「最強チームをつくるコミュニケーションの秘訣」について紹介しています。

今と昔の仕事スタイルの違いとは?

 著者の越川慎司氏は、これまでにベストセラー『AI分析でわかったトップ5%の社員の習慣』(ディスカバー・トゥエンティワン)をはじめ、合計21冊もの著書を持つアグリゲーターです。これまでに815社、のべ17万人の働き方に変革をもたらした「社内コミュニケーションのプロ」として知られていますが、そんな著者がAIを駆使して導き出した「最強チームをつくるコミュニケーションの秘訣」を本書の中で多く紹介しています。

冒頭は、特に「今と昔の仕事スタイル」の違いの解説から始まります。

かつて著者が新卒で入社した大企業では、上司に「なんでそんなことが分からないんだ!」と怒られ、デスクの向こうの課長の顔色をうかがいながら、怒られないよう恐々と仕事をしていたと言います。

さらに著者は、上司からの理不尽な「作業の差し戻し」にも耐え続けましたが、しかし、これはブラック企業の失敗例的な話ではありません。世界で時価総額1位となった会社の話で、当時はこの仕事の進め方が「正解」とされていました。

しかし、変化が激しい不確実な現代では、「理不尽なことでも言われたことをこなせば仕事として成り立つ」ということではなくなりました。

あらゆる仕事を、社員個々が考えてやらなければならず、また、複雑な課題、大きな課題については、一人ではなく周囲を巻き込んでチームで対応しないといけません。

コロナ禍で一気に浸透したリモートワークでは、目の前に同僚が座っていない中で、ITツールを駆使して意図を理解してもらい、数多くのスタッフの協力を仰ぎながら進めなければいけなくなりました。

こういった「今と昔の仕事スタイル」の違いをきちんと理解し、「成功」へのプロセスを実践している組織には、共通のコミュニケーション・パターンがあり、その逆もまた然りと著者は言います。

これを前提とし、さらに17万人のAI解析による裏付けを行いながら、最強チームを作るための多くのメソッドが紹介されているのが本書ですが、その前提となる私たち「日本人特有の慣習」「コミュ力の低さ」についてもしっかり紹介されています。

日本企業が「世界一コミュ力」が低い実例

冒頭でも触れた「なぜ日本企業は世界一『コミュ力』が低いのか」という章では、日本人独特のコミュニケーションの傾向と、最強のチーム作りにおける「すべきこと」が紹介されています。特に興味深いのは以下の内容です。

●日本人のコミュニケーションは、世界でいちばん「遠回し」

●「は」という一文字で人間関係は壊れてしまう

●失敗会議は、上司が「7割以上」話している

●できるリーダーは、「あれ、これ、それ」を使わない

●1ページが「385文字以上の資料」は伝わらない

●「できるチーム」は、メールではなくチャットを使う

  

多様化する現代の仕事スタイルは「修正しながら進む」が正解

 

続く「強いチームには共通する『7つの原則』がある」「エース社員たちは、こうして人を動かしている」「強いチームは『しくみ』でつくる」といった章も、実用的でありながら、組織リーダーはもちろん、そこに属する社員たちの感情に寄り添うような筆致でやさしく、わかりやすく解説されています。

中でも特に印象深かったのは、今と昔の仕事スタイルの違いとして挙げられる「セーフ&ファン」があるからこそ、挑戦し続けられるという紹介です。

 「現代は、昔のように『成功』と『失敗』が二手にあって、どちらかを選ぶという仕事のスタイルではありません。

変化が激しく、市場のニーズが多様化するなかでは『成功の法則』は画一的ではなく、『失敗しても修正しながら前へ進んでいくと成功が待っている』ということを、『うまくいっている組織』に対する調査で実感しました。

多くの組織が一歩踏み出せないのは、失敗が怖いからです。

成功は失敗の先にあるわけですから、失敗を受け入れて一緒に修正していく組織が成果を出し続けています」(本文より)

データ羅列だけでなく「組織あるある」もふんだんに入った一冊

 

これらの他にも「17万人のAI分析」に裏付けされた、「最強チームの作り方」「困難を乗り越えられる組織作り」「成功パターン」が様々な視点で綴られており、実用性・読み応えともに充実している一冊です。

分析データの羅列だけにとどまらず、「組織あるある」的なエピソードもふんだんに盛り込んだ理由を、担当編集者に聞いてみました。

「近年、若手との価値観のズレや、リモートワークによる物理的な距離などから、社内コミュニケーションに悩むリーダーが増加傾向にあります。著者の越川慎司氏は、長年社内コミュニケ—ションについての調査を行っており、唯一無二の知見をお持ちです。上記の課題を解決するためにどうすればいいのか、打ち合わせを重ね、出版させていただくことになりました。

本書の事例や方法論は、著者の主観的な経験則報告でなく、800社17万人のビジネスパーソンの行動履歴をAIで独自分析し、『困難を乗り越える組織』に共通する条件を導き出した一冊です。しかし、分析したデータを羅列するだけでは、なかなか『自分ごと』として捉えることはできません。

そこで、『こういう問題はうちの職場にもある』『ぜひ実践してみよう』と思っていただけるような方法論を盛り込んでいただきました」(担当編集者)

この点こそが本書の一番の魅力と言って良いでしょう。コミュニケーションが世界一(?)苦手な日本人ビジネスパーソン向けにとって、この上なく優しく、そして最強のビジネス書のように思いました。

最後に改めて担当編集者にメッセージをもらいました。

「プレゼン、会議運営からメンバーとの日常的な雑談まで、社内コミュニケーションにまつわる解決法を網羅しています。ぜひ手にとっていただき、読者の方々の組織改善のお役に立てましたら幸いです」(担当編集者)

「若い人が会社で続けない」「若い社員ばかりが辞めていく」と悩むリーダー、あるいは仕事の現場でのチーム構築術に頭を抱えている方は、必読の一冊です。

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