「逆上がりができない」「跳び箱が跳べない」…体育の授業で友達と同じようにできず、傷ついた経験のある人、運動嫌いになった人もいるのではないでしょうか。
子どもを運動嫌いにさせないスペシャリストがいます。「みやもっち先生」こと、幼児体育講師の宮本忠男さん。運動遊びを通して、子どもに体の基本的な使い方を教えていく「みやもっち体育」を考案しました。
20年以上にわたる実践を「子どものやってみたい!を育てる みやもっち体育」(クリエイツかもがわ刊)にまとめた宮本さんに、子育て応援ウェブメディア「ココハレ」編集部がインタビューしました。
運動経験の差から生まれる「やりたくない」「できっこない」
宮本さんは1964年、高知県土佐清水市生まれ。中学からテニスを始め、中京大学を卒業後、高校の体育教師に。1997年に幼稚園で体育の授業をしたことを機に、幼児体育の道へと進みました。
当時は「幼児体育」という言葉自体が珍しかった時代。「マラソンをするよ」と呼び掛けると、「足が痛い」「今日はコンコン(咳)出る」。あれこれ理由をつけて運動を嫌がる幼児を相手に、試行錯誤しました。
運動が好きで得意な子、「やりたくない」「できっこない」と苦手意識を感じている子、お手本を見て練習すればできる子、お手本を見ても理解できずに困っている子…。
運動への苦手意識は、運動経験の差や指導方法の問題で生まれると、宮本さんは気付きました。
目の前の子どもを理解し、一人一人に合わせて編み出していった独自の指導法が「みやもっち体育」です。「みやもっち」は「たまごっち」にちなんで子どもが名付けた、宮本さんのニックネームです。
鉄棒、マット運動、跳び箱、縄跳び…12の運動を紹介
体育の指導の問題について、宮本さんは「指導者が、子ども一人一人の『悩みのブラックボックス』を開けないまま、自分のこつを教えてきた」と指摘します。
「逆上がりができない理由には、『逆さになるのが怖い』『足を振り上げた時に脇が開いてしまう』などさまざまあります。子どもが逆上がりの何に困っているかが分からないと、『お手本をよく見て』『頑張ったらできる』という根性論の指導になります」
みやもっち体育の特色は、「運動構造を知る」と「その運動に似ている動きを経験できる遊びを取り入れる」です。
例えば、逆上がりの運動構造は「足を振り上げる」「足を上に持っていく」「太ももを鉄棒に付ける」「回転」「上体を起こす」「着地」の六つの動き。
宮本さんは今回、鉄棒、マット運動、跳び箱、縄跳び、マスト登りなど12の運動について、運動構造と、一つ一つの動きを習得していく遊びのプログラムを紹介。興味の引き出し方も伝えています。指導者が動きや課題を理解できるように、写真やイラストをふんだんに掲載しています。
大縄跳びは「波が来たぞー!」。子どもには「冒険」の時間
宮本さんは独自の指導法を理論的に説明したいと考え、45歳で高知大学大学院へ進み、運動学を学びました。「みやもっち体育」は関西など、高知県以外にも広がってます。
授業を見学した先生や保育士が驚くのは、集中する子どもたちの姿。子どもに「体育」と意識させないのが魅力となっています。
例えば、大縄跳びでは、縄は出てきません。「波が来たぞー」という宮本さんの合図で、子どもたちは大きな布をくぐったり、近づいてきたひもを跳び越えたり。
大人は「そうか、縄跳びに必要な動きを一つずつ身に付けているのか」と気付きますが、子どもたちにとってはスリル満点の「冒険」です。
「僕は動き方を見せたり、ルールを伝えたり。遊びを引っ張るガキ大将」と宮本さん。体育を「根性論」から「楽しいもの」に変えたいと考えています。
「逆上がりができない」を「運動能力の問題」で片付けないで
体育の授業では、課題の運動ができない場合、「その子どもの運動能力の問題」で片付けられてしまうことが少なくありません。
宮本さんは「教員も保育者も、子どもに指導者として関わる以上、成果を出すのが専門性であり、プロの仕事」と呼び掛けてきました。
「昔ながらの指導法で、特に苦労もなくできちゃう子もいます。できない子のために、運動の構造を理解して、その運動につながる遊びを用意して…というのは、先生からしたら手間ですが、どの子も『みんなと同じように逆上がりがしたい』と思っています」
「できない子ができるようになる指導が大事。『○○ちゃんみたいに速くは走れないけど、みやもっち先生に聞いてさっきより速く走れた!』という経験を大事にしていきたい」
子ども一人一人に合った運動のこつを伝えるヒントが、宮本さんの本には散りばめられています。雨の日のおうち遊びなどにも活用できる一冊です。親子で楽しんでみませんか?