「奈良公園の子鹿には絶対にさわらないで!」なぜ?5カ月しか生きられなかったこつぶちゃんが伝えようとしたこと

竹内 章 竹内 章

ひとの安易で軽率な行動が遠因で生きることが難しくなり、子鹿の命の灯りが消えてしまいました。川地さんに話を聞きました。

ー触られて人の匂いがついてしまったため、母鹿が育てることを放棄してしまうケースは、川地さんが知る限り、どれぐらいあるのでしょうか。そうした子鹿の多くはこつぶちゃんのように1歳まで生きられないのでしょうか、

「残念ながら奈良公園を歩くと子鹿に触る人を多く見かけます。こつぶちゃんは春に生まれた子鹿より小さくてかわいく、動きがゆっくりなのとで特に触られていました。ただ触られた子鹿のすべてが育児放棄されてしまうわけではなく、育児放棄につながる可能性があるということです。生まれた子鹿の2頭に1頭は1歳を迎えられないと言われています。原因は病気、交通事故、育児放棄などがあげられます」

ーそんな厳しい状況とは知りませんでした

「こつぶちゃんのように夏生まれの子鹿は元々体が弱く、それに育児放棄が重なって母乳をもらえなくなると病気に対する免疫力や抵抗力を得られず生きていくのが難しくなります。公園を訪れた人に簡単に触られてしまう原因として、動物園のふれあいパークなどの存在も影響しているのではないかと思います。奈良公園の鹿も同じように触っても大丈夫と思っているのかもしれません」

ー弱った子鹿を救うには

「弱ってる子鹿はなかなか保護してもらえず、その理由として母鹿が近くにいる場合は親子を一緒に保護するのは難しく、子鹿だけを保護して親子を離ればなれにすることもデメリットが大きいと考えられてるからだと思います。こつぶちゃんのように育児放棄されて子鹿だけになって弱ってる場合もなかなか保護してもらえません。こつぶちゃんの場合も、何度か愛護会さんに見にきてもらってますが保護されず、保護されたのは生まれてすぐの時と亡くなる前日に獣医師さんに直接現場で見てもらったときだけでした。保護する際に鹿にストレスがかかって余計に悪化させてしまう恐れがあることや鹿にとっては公園内を動き回れるほうが体によく、鹿苑(鹿の保護施設)に閉じ込めてしまうことのほうがストレスになりよくないと言われました。私自身は弱ってる場合は獣医師の判断で保護するなり現場で何らかの処置をしてほしいと思っています」

ーファインダーを通してこつぶちゃんを見守る間、どんな気持ちだったのでしょうか。もう使われることのない寝床の写真が印象的でした。

「こつぶちゃんの写真を撮っている時には辛さや悲しみとかは感じてなくてとにかく元気でいてという思いでした。雌鹿に母乳をもらえたときはホッとし、元気がない時やいつもいる場所にいない時は心配でした。特に寒い日は。辛さや悲しみはこつぶちゃんがいなくなってから日に日に増していきました。特にあの木の寝床のことを思うのが今は一番辛いです。あの寝床の写真を撮ったのは亡くなったその日の午後でした。ついさっきまで雨が降っていたのに、いつもこつぶちゃんが寝ているところだけ濡れていなくてなんて賢い子なんだろうと思いました。同時にあんな小さな子がいつもどんな思いでここでひとりで寝ていたのだろうかと思うともうたまらない気持ちでいっぱいでした。そしてこの木にはこつぶちゃんの悲しみや無念さや生きた証しのすべてが詰まってるような気がして写真を撮りました」

 「あの木の下に枯れ葉の寝床を整えてあげたのは、こつぶちゃんの名付け親の方です。生まれてすぐのころにこつぶちゃんを見つけ、『つぶらな瞳の子だったので』と名付けたそうです。その方は遠方に住んでいるのですが、こつぶちゃんのお世話をしにずっと奈良公園まで通われてました。こつぶちゃんのお母さんのような方です」

 ーあらためて奈良公園を訪れる人に望むことを

「愛護会さんがYouTubeなどでマナー動画を何作か流していて、その中で子鹿には絶対に近づかない・触らないと訴えています。これを見てから奈良公園にお越しいただくのが一番いいのですが現実はそうもいきません。現場での立て看板の設置や音声でのアナウンスが必要だと思います。とくに音声が効果的だと思います。ツイッターには観光バスの車内でアナウンスするとか観光案内に掲載するとかの意見も寄せられていました。子鹿に触ってる人に触ってはいけない理由を説明するとほとんどの人が納得してくださいます。理由を知ってさえもらえれば子鹿に触る人はかなり減ると思います。奈良県や奈良市は、子鹿には絶対に近づいたり触ったりせず、また鹿にパンやスナック菓子を与えることは鹿の体に害を及ぼすことなども含めて音声案内や看板の設置、パトロールなど効果的な注意喚起の方法を実行してもらいたいです」

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