スマホやテレビばっかり見せると、子どもの将来にこんな差が? 根拠のない自治体ポスターに憤り 

竹内 章 竹内 章

「育児は女性がするもの。スマホやテレビは子どもにとって害悪」。ソーシャルワーカーとして子ども・子育て支援に従事しながらこども食堂やシェルターを運営している鴻巣麻里香さんは、そんなメッセージが込められたポスターを見て目を疑いました。ポスターによると、スマホやテレビを見せて育てると、親の声掛けに反応せず宿題をしない子どもになるそうです。エビデンス(根拠)が示されず、作成したのは地元自治体。SNSでは「こんなポスター作っておいて女性医療支援て」「絵柄やフォントだけ令和に寄せても、中身が昭和じゃ意味ない」と疑問や批判の声が相次いでいます。

鴻巣さんが福島県白河市内の医療機関で見かけた「赤ちゃんのうちから…メディアから子どもを守りましょう」というポスター。下部に「白河市こども支援課」とあり「福島県立医科大学ふくしま子ども・女性医療センターの協力のもと進めています。」と記されています。メディアはテレビやタブレット、スマホを指しているとみられます。

エビデンスはどこ?

ポスターは、「子どもが泣いたとき」を出発点にして2通りの育児をイラストで描いたもの。「声をかけずに抱っこ」「タブレットでアニメを見せる」「ミルクを飲ませているとき、女性がスマホを見ている」場面が続き、「もうすこしがんばりましょう」と大きく三角マーク。そして矢印で示された未来として、ぼーっとして呼びかけに反応しなかったり、宿題をするよう注意されると反抗する子どもが描かれています。一方、「とてもいい!」と称賛する育児シーンにはメディア端末は描かれず、女性が赤ちゃんに話しかける場面が続きます。こちらの未来像は、宿題を済ませ家事を手伝う子どもです。

「どこにも父親がいない(育児は母親の役割でスマホ育児は母親の責任という前提になってる)エビデンス示されてない(脅しになってる)これを医大の協力で行政が作って医療機関に貼っちゃうんだね。「もうすこしがんばりましょう」って誰目線なんだろ」。鴻巣さんの自身のアカウント(@marikakonosu)で発したツイートを契機にこのポスターに注目が集まりました。

スマホで子育てあり?なし?

内閣府の調査では低年齢層(0~9歳)の子どもの74.3%がテレビやパソコン、タブレットなどでネットを利⽤。0歳11.6%、1歳33.7%、2歳62.6%と年齢につれて利用率も上昇。これらは保護者が見せていると思われ、デジタルが当たり前の時代、ネットとともに育っていることがうかがえます。そんな中、子どもにスマホを見せっぱなしにしていることは「スマホ育児」「スマホ子守り」と呼ばれ、スマホなしで育った世代からは批判的な風潮もあります。

日本小児科医会の「子どもとメディア」対策委員会は2004年、「2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控える」「授乳中・食事中のテレビ・ビデオの視聴は止める」「すべてのメディアへ接触する時間は1日2時間まで」などの提言を発表。一方、日本小児神経学会はメディアが子どもに及ぼす影響について、「専門的な立場からさらなる科学的な検討が必要」とやや慎重な姿勢を示しています。

日本小児科医会のサイトでは「子どもの生活時間の中で、睡眠時間、食事の時間、園や学校で過ごす時間、友達をおしゃべりや遊ぶ時間などをひくと2時間が限度であろうというのが提言の根拠になっています」という記述がありますが、ポスターが示している子どもの未来を左右するかのようなエビデンスは見当たりません。

表現が男性不在

スマホなどのメディア機器を子育てにどう役立てるか、保護者は自分自身が子どものころになかった端末の使い方に頭を悩ませています。視力や姿勢への影響はあるのか、その程度は。メディアでもたびたび特集されるほど、関心の高さがうかがえますが、スマホの影響に関する研究はまだ結論には至っていないようです。鴻巣さんに聞きました。

ーこのポスターがはらむ問題点は

「大きく二つあると思います。まず男性が描かれていないこと。「子育ては女性の仕事」という無言のメッセージは、子育てがうまくいかないことは女性の責任にされてしまいます。こうした女性(母親)への圧力は、ただでさえ孤立しがちな子育てに悩む女性たちを追い詰めることになります。同時に、父親疎外という問題も含んでいます。私は仕事でシングルファザーや子育てを主に担う父親たちとも関わりがありますが、様々な育児情報が母親向けに発信されていたり「お母さん」が保護者と同義に使われることに疎外感を抱くという声は少なくありません」

ーもうひとつは

「メディア(デジタル端末)が子どもに「悪い影響」を与えるという断定的な表現で子育てをジャッジしていることです。多くの親は自分の子育てが正しいかどうか迷いながら、そして正しいか否かのジャッジそのものが子育ての負担となっています。このポスターは「もうすこしがんばりましょう」「とてもいい」と子育てをジャッジしています。これでは親を追い詰めるだけです。本来なら困っていたり苦しんでいる人を支える福祉や医療の側がこのような姿勢であることが残念です」

ー未来の子どもを描いていますが、あまりにも極端です

「不安を煽るだけだと考えます。子どもは育つ環境の中にあるさまざまな情報を得ながら成長します。メディアもそのひとつです。たしかに子どもの動画視聴やSNSやゲームの時間が増えている、注意してもやめてくれない、睡眠や学習や登校に影響が出ているetc.という相談は増えています。ですがそれもメディアだけでなくメディア以外の様々な情報(身近な人との関係性、学校や地域に居場所があるか、不安なことがないか、どんなことに興味がありその興味を肯定・支持してもらえているかなど)との相互作用で引き起こされていることです。子育てへの「悪い影響」だけ取り出して「メディアのせい」にするという極端な主張に妥当性は感じませんし、言い換えれば「メディアのせいにすればいい」という無責任な主張でもあります。そしてこのポスターに描かれた「悪い例」が「大人の言うことのきかない」「大人の期待通りに振る舞わない」ものであることも大きな問題だと考えます」

ーSNSでは「自治体の認識があまりにも浅い」という指摘もありました

「子育ての大半を女性が担っているというのは現実で、男性不在のポスターはその反映とも言えます。ですが、そんな現実を変えていこう、父親も育児の担い手であり責任を役割を分かち合うべきという流れは確かにあり、自治体はそれを牽引すべき立場です。メディアの影響についても科学的根拠に乏しく、子育てを評価、ジャッジする姿勢は支援とは程遠いものです。子育てを支援する立場である行政がこのようなポスターを作成すること、作成の過程でどこからも「おかしいのでは?」という指摘が無かっただろうことを非常に残念に思います。今回の件を機に、今後の発信については誰よりもまず当事者の意見、そしてより多角的な専門家の見解を取り入れていただきたいと思います」

まいどなニュース編集部は、白河市こども支援課に(1)デジタル端末を見せて育った子は将来宿題をしなくなる、見せなかった子は親のお手伝いをすると描いた根拠(2)ポスターの中に男性が描かれていない理由(3)啓発素材としてこのポスターが「適切」と考えるかーの3点について回答を申し入れており、市から返答があり次第掲載します。

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