大晦日の夜、街に響き渡る除夜の鐘。人間の百八の煩悩を払うという年越しの風物詩です。鐘つきの列に並んで力強くつこうと張り切っている皆さん、僧侶の吉田武士さんのお願いに耳を傾けてください。「用法用量を守って鐘をつきましょう」。物事には節度と優しさが必要なのです。
「除夜の鐘。思いっきりゴーーン!と鳴らしたくなりますよね。しかし、余韻も消えないうちに連続で強打すると鐘にダメージがあります。最悪、鐘がひび割れたりします(しました)。鐘は各寺院の指示で用法用量を守って正しく撞きましょう」
浄土宗白龍山長安寺(長崎県大村市)の僧侶、吉田武士さんが自身のTwitterアカウントのカレー坊主(@curry_boz)のこのツイートが注目を集めています。吉田さんに聞きました。
ー鐘がひび割れすることを初めて知りました
「新調した鐘は2022年10月に富山の鋳造所で完成し、11月に新梵鐘の落慶お迎え法要を行いました。古い鐘が割れた原因は2021年の大晦日の鐘撞きだろうとの見立てです。実際にひび割れが発覚したのは今年2月ごろです。古い鐘を引き取っていただき、新しい鐘をお迎えした費用は、すべて地域の方のご厚志、ご寄付で賄われました」
ー好ましくないつき方があることも初耳でした
「力任せに強打すること、鐘が鳴っている最中、余韻が消えないうちに撞くことは、金属の性質上よくないそうです。私どもの定期的なメンテナンスとして、鐘木(打つ棒)との接触面の微調整などをします。いい音色を響かせるため、また鐘へのダメージを軽減するためです」
ー以前の鐘の歴史をうかがえれば。鐘の寿命はあるのでしょうか。
「以前の梵鐘は昭和23年鋳造のものです。戦後間もない時期です。物資が欠乏する時代に平和と復興を願って地域の皆さんが奉納下さったものと想像しています。寿命については存じ上げませんが、適切な扱い方で使えば100年以上いつまでも鳴るのではないかと思います」
吉田さんがアカウントで公開した当時の写真には、大勢の人が集まって鐘が運ばれていくのを見守っています。敗戦からまだ間もない時期ですが、少しずつ日常を取り戻していく喜びをかみしめているのかもしれません。
大晦日、吉田さんはこんなツイートもしています。
「除夜の鐘は平和の鐘でもあります。先の大戦で日本全国の寺院の鐘は収用され銃弾や兵器となりました。現在ある梵鐘は戦後に鋳造されたものばかり。二度と悲しみが起きないよう。特に戦後に作られた鐘は、地域の方の復興と平和の願いが込められ作られたものでしょう。除夜の鐘のときにはぜひ祈り合掌を。」