亡くなった愛犬や愛猫が、“真珠”に生まれ変わって帰ってくる――。そんな新しい供養の形「真珠葬」を提供するのは、ウービィー株式会社。
代表取締役の増田智江さん(@shinjusou)は、愛猫家。真珠葬は、愛犬を亡くしてペットロスに苦しんでいた、大学教授・松下吉樹さんの一言から誕生した。
「亡き愛犬の遺骨を真珠にできる?」の一言が“真珠葬”の原点に
2016年、増田さんは「世界一、大きな真珠ができる場所がある」と聞き、長崎県の五島列島へ。奈留島で真珠養殖を行う清水多賀夫さんと出会い、食事を共にした。
すると、向かったお店で清水さんの知人であり、長崎大学大学院の教授・松下吉樹さんに会い、3人で食事をすることに。
食事中、真珠の養殖に詳しい清水さんは雑談として、中に何を入れても受け入れて真珠を作るアコヤガイの生態を話したそう。その時、松下さんから「亡くなった愛犬の遺骨でもできますか?」との言葉が。
この素朴な疑問を機に、増田さんらは松下さんの愛犬ランちゃんの遺骨を真珠にしようと、奮闘し始めた。
「みな理系だったからか、知的好奇心もくすぐられて。実際にランちゃんの真珠ができたのは、2年後のことでした」
ランちゃんの遺骨からできた真珠をアコヤガイから取り出した時、松下さんは泣きながら笑って「おかえり」と言った。胸が熱くなるその姿は増田さんの心に深く刻まれ、「こうした供養の形を求める人は他にもいるのではないか」と思うように。
そこで、清水さんの協力を得ながら、本格的に「真珠葬」というサービスを確立させることにした。
栄養満点な海で1年間を過ごして出来上がる“オンリーワンの真珠”
真珠葬をするにはまず、ゆうパックで送られてきたお骨の預かり用ケースに12個の遺骨を納める(※スタッフが自宅へ遺骨を預かりに来てくれる有償サービスもあり)。遺骨は、識別番号が記録されたICチップと合わせて樹脂コーティングされ、真珠の核となる「虹守核(にじもりかく)」となる。
真珠養殖のプロである清水さんは、アコヤガイの成長に最適な時期を見極めて「虹守核」をアコヤガイの中へ。
「虹守核」の入ったアコヤガイは体力を回復させるため、専用の養生ケースへ。養生ケースは、NASAのエアバッグにも採用される繊維で作られているという。
その後、養生ケースを養生カゴに入れ、波の穏やかな海にしばらくの間、置く。
この時、アコヤガイが「虹守核」を吐き出すこともあるので、清水さんは状態をこまめに確認。アコヤガイから出てしまった「虹守核」は新しいアコヤガイに入れ、真珠が作られるようにするため、遺骨からひとつも真珠ができなかったという事態は起きない。
「虹守核」が馴染んだアコヤガイはネットに入れ、栄養豊富な成育用ネットで育てる。清水さんは生育状況や海水の流れなどをチェックし、アコヤガイを適切な場所に随時、移動させるのだという。
こうした見守りを数カ月続け、世界にひとつだけの真珠(虹の守珠)が誕生するのだ。
このような作り方に辿りつくには、3年の研究期間を要したそう。実際にサービスを提供し始めたのは、2019年のこと。真珠ができるまでに1年もかかるため、増田さんは当初、「本当に需要があるのだろうか…」と不安を感じたこともあったという。
だが、ペットロス当事者にとっては、その時間の長さがプラスになることもあるのだと、増田さんはサービスを提供する中で知った。
「真珠になった“うちの子”を、1年後に迎えに行くことが生きる目的だったと言って下さる方も多くいらっしゃって…」
実際、増田さんは愛猫が亡くなったことを認めたくなかった方の依頼を受けた時、真珠葬を通して気持ちを切り替えられた姿に心打たれた。その飼い主は真珠になった愛猫と対面して、ようやくこれまで一緒に過ごしてきた日々に区切りがつけられ、「これからは真珠になったこの子との時間が始まる」と前を向けるようになった姿に胸が熱くなったという。
なお、完成した真珠は色や形に個性があり、オンリーワン。飼い主自らの手でアコヤガイから取り出すことができるため、依頼者の7~8割が現地に足を運ぶという。
また、現地へ行くことが難しい場合には、スタッフが取り上げる瞬間を動画で撮影して送ってくれる。
「大切な存在が亡くなると、時が止まって、世界から色が消えてしまう。そんな悲しみや苦しみをおろして、喜びに出会うお手伝いをしたいと思っています」
誰も苦しまない“誠実な真珠作り”を続けていきたい
増田さんは自身も猫好きでペットロスの苦しみも分かるからこそ、真珠が完成する1年間には飼い主が安心できる様々な配慮も行っている。
例えば、「いい天気の中でゆったり過ごしています」や「台風の接近のため、避難させました」など、ことあるごとに現地から写真付きで近況報告。
「飼い主さんたちは、遺骨選びの時から、『綺麗な骨を選んであげたい』と真剣。だからこそ、完成を心待ちにしているだろうなと思って、最低限のこと以外も、つい送ってしまいます(笑)」
また、真珠作りには自然が大きく関わるからこそ、免責事項は必ず増田さんが電話で説明する。
「みんなに嫌な思いをしてほしくなくて。真珠作りに携わる職人さんも一生懸命ですし、ペットを亡くして辛い方に、もう一度苦しい想いをしてほしくもないから」
ペットロスの苦しみにつけこむ悪徳ビジネスが巷に溢れているからこそ、増田さんは一緒に1年後を楽しみに待ち、時を乗り越えていく関係性を依頼者と築きたいと思っている。
「私たちはその子が亡くなってから、飼い主さんたちに会う。でも、それは亡くなった子が繋いでくれた縁。そうやって、亡くなってからも縁を紡いでもらえると、見守ってもらえているような気持ちにもなれると思う。亡くなっても、生きていたことはなくなりません」
遺骨リングなどのメモリアルグッズとはまた違い、大切な動物家族が違う形に生まれ変わったという感動が得られる真珠葬。気になった方はまず、ホームページをチェックしてみてほしい。