「あれ?何かいつもと違うな?」…新学期が始まりしばらくたつと、子どもの様子に違和感を感じて不安を覚えることがあるかもしれません。それってもしかしたら、子どもからの「SOSのサイン」なのかもしれません。登校しぶりや一時的な不登校を経験した先輩保護者のみなさんに、子どもが悩んでいることに気づいた「変化」について聞きました。
早起きタイプだったのに、朝、グズグズしだして…
▽Nさん
後から思うと、朝の様子が最初に変わった。早起きタイプでのんびり朝食を食べる子どもだったのに、布団から出たがらず、寒いとか暑いとかあれこれ言いながら、なかなかベッドから起きてこなかった。
ずっと後で聞いてわかったのは、当時、友だちとの関係がうまくいかず、学校へ行くのが嫌だったらしいこと。それで朝になると「ああ、また学校いかなくちゃ」と思い、起きるのが億劫になったらしい。
「朝=登校」だから、朝の様子に変化があったら気をつけたほうがいいと思う。1~2日程度なら、たまたま疲れているとか、ちょっと友だちと喧嘩したから嫌気がさしている程度かもしれない。でも、何日も同じように朝になってグズグズしたら、もしかしたら何か嫌なことがあるのかも?と少し注意して見守ったほうがいいと思う。
◇ ◇
…Nさんは日に日に朝の行動がスローモーションになっていく娘に「何かおかしい」と思い、問いただしました。
「しつこく問いただしたのもいけなかったのかもしれない。『なんでもないってば』としか答えてくれなかった」
とNさんは言います。小3のクラス替えで仲良しグループからひとり、違うクラスになってしまったこと、新しいグループのどこにも入れずに宙ぶらりんで居心地が悪かったことは、「娘が中学生になってから話してくれたこと」だそう。
しばらくして、それなりに話す友だちもでき自然と解消したそうですが、娘さんは「今もたまに思い出す、あのまま友だちができなかったらどうしようって。だから、中学に入るときも怖くて嫌だった」とNさんにぽつりと言ったのだとか。
Nさんは「成長過程のひとつとも言えるけど、たまたまうまくいっただけでトラウマになる可能性もあったと思う」と話します。
あの時、ちょっと様子がいつもと違うなと思った時点で、問いただすのではなく「会話を意識して増やしたり、ふたりで買い物にいったりして『何かあるなら相談にのるよ』とさりげなく言葉をかけたらよかった」とNさんは語ってくれました。
学校に行こうとすると吐き気を催して…
▽Hさん
もともと食が細い方なので、食べないからといってあまり気にしていませんでした。ただ、食べなくてもおしゃべりな次男はワイワイ話す方だし、兄にちょっかいをだして叱られるタイプ。その子が、食事の最中も無言のまま箸でおかずをつついており、ふと気づくと私と長男は話しているけど次男は上の空。でも、わたしは誰かと喧嘩したのかなくらいに思っていました。しばらくすると、学校から帰宅すると長々とトイレに入っていると長男から聞きました(私はパート勤務のため下校時はいない)。
お腹の調子が悪かったのかと思った私が病院へ連れていこうとしたら、いきなり泣き出し、もう明日から学校には行かない!と言い出したのでびっくり。実際に吐き出したので、本当に驚きました。その後は朝も食べられず、行こうとすると吐き気を催す、学校を休ませると昼にはケロッとしてご飯を食べる、そして夕飯の頃から表情が暗くなる……の繰り返し。
スクールカウンセラーに相談し、登校を強制するのではなく、保健室登校を検討、またカウンセラーから話を聞いた当時の校長先生が初めて保健室登校した子に「校長室に来てもいいんだよ、先生はもともと社会が得意だから、社会の授業ならやってあげるぞ」と話しかけて下さったそう。
結局、半年近く遅刻や保健室登校を繰り返しつつ、なかば“いじめ”のようなことをされていたことが判明。小5のクラス替えで学校の配慮により、その子たちとは離れ、ベテランの担任がつき、カウンセラーもよく親子の話を聞いてくださり、なんとか登校するようになりました。
◇ ◇
…Hさんの次男は、「細くてガリガリなことを数人の子たちにひどくバカにされた、そのうちに仲が良かった友だちまで“ガリ男、汚い”などと言い、仲間はずれにされた、しかも担任の先生と相性が悪く相談できなかった」のだそう。段階的に状況が悪化し、それが食欲の減衰、吐き気といった形で現れていたのでしょう。
「いじめのようなことは最初のうちなら火消しもしやすい。少なくとも、にぎやかな次男が無言で食事をするようになった時点でもっと真剣に子どもと相対すればよかった。初めは、からかい半分だったのだろうから、その時点で先生に相談すればここまで深刻化しなかったのかも…と思うと、親として後悔もある」とHさん。
学校や先生への相談は少し早いくらいでもいい、スクールカウンセラーがいるなら話しやすいので相談してみるといい、子どもが話をしてくれない雰囲気なら父親とか祖父母とか、母親以外からアプローチしてみる方法もある。
「学校に行かない日が増えれば増えるほど、リハビリというか、以前と同じように戻るまで時間がかかる。風邪といっしょでこじらせないのが大事とカウンセラーの先生に言われました」
Hさんは「いじめを早い段階で見極めるのは難しいし、いじめではないかもしれない。もし、いじめられていたとしても、そのことを子どもは話したがらない」と言います。
「それでも、親だから子どもを守ることを第一に考えて、何かある!と騒ぎ立てるのではなく、夫婦で話し合っていろいろと子どもと話す機会を持ってみること。学校のことは親にはわからないので、どういう様子ですか?と先生にお話したり、スクールカウンセラーや保健室の先生などに相談してもいいと思う」と答えてくれました。
何かおかしい?…昼夜逆転していたとは
▽Mさん
小2の息子が11時くらいになると、私たちの寝室にきてベッドにもぐりこんでくることが何回かありました。悪い夢でも見たのかな、共働きで朝も先に出勤しているので寂しいのかな、かわいいな、とのんきに思っていたのですが…。何度か続いた時、夫が「もう小学生なんだから、ちゃんと自分のベッドで寝なさい」と言うと、おとなしく言うことを聞いていました。
しばらくして担任の先生から連絡があり、遅刻をしたり授業中によく寝ているが体調はどうか?と聞かれてびっくり。夜中に子ども部屋をのぞいてみると、小さな電気をつけて漫画を見ているので怒鳴りつけました。
思い起こすと、小さい時から少し周りの子と違うとは感じていたのですが、それも個性と思っていました。今でも個性だとは思っていますが、社会生活になじみづらい面があるとようやく私が認めたのは小4になってから。いわゆる発達障害児の傾向があるとなかなか親としては認めたくなかったのです。
支援センターで話をしてみると、「発達障害とかグレーゾーンとか言われると多くの親御さんが驚く。でも実は程度の差こそあれ、珍しいことではなく、クラスに何人かいる場合もよくある」と聞き、いろいろとあてはまることが多いと納得しました。昼夜逆転し、遅刻したり学校を休みがちになったりするのも、発達障害では決して少なくないと知り、思い切って仕事を退職し、子どものサポートに徹することにしました。
◇ ◇
Mさんの息子さんは「もともと個性が強く、こだわりがあるタイプ」であまり人と交わることも得意ではなかったそう。
ただ、逆にひとりでも平気だし、我関せずとマイペース、タフな性格だと思いこんでいたために、子どもの気持ちを深く考えることもしなかったそうです。
「嫌いなことは頑固にやらない、興味のない授業では堂々と寝込んだり、図書室に行ったままクラスに戻ってこなかったりと、それらしい傾向はあったし、先生からも指摘されていたのに、わたしは気づかないというか、性格だからしょうがないと思い込もうとしていた」とMさん。
支援センターで相談を続け、専門家のアドバイスにそって家族も協力、また学校とも話し合いました。
将来、社会生活をつつがなく過ごすためにも、さまざまなトレーニングや親の学習プログラムなども受け、今は落ち着いてすごしているそうです。
「何度か寝室にもぐりこんできた時、どうしたのかなともっと注意深く見守っていたら子どもの資質に真剣に向き合っていたかもしれない。昼夜逆転しているとわかった時、先生から授業に集中できていないと話があった時、どのタイミングでも専門の支援センターで相談するべきだった。でも漠然と気づいていたけど、子どもの様子がおかしいことを認めたくないからと先延ばしにしていたせいで、子どもは生きにくさを感じていたと思うと、母親失格だなと思います」
「神経質になりすぎず・注意深く見守る」ことの難しさ
体験者のお話をどう感じましたか?
「朝グズグズするのが続いたら何かあると気づくはず」「夜中に起きているのがわかったら、ちゃんと親子で話し合いをもつはず」…そんな風に思った方も多いのではないでしょうか。
確かに、客観的に見ると「シグナルというより、そんな子どもの変化に気づかないわけがない」と思います。
ただ、日々の生活では無意識に見過ごしていることや、「ねぇ、ねぇ。あのさ…」と話しだした子どもに「ちょっと待って、今これ終わったら。あとでね」と言ったまま、忘れてしまうようなこともありがちです。
子どもの様子を24時間見守ってはいられません。子どもは成長すると共に、親にはわからない「子どもの社会」で過ごす時間が長くなります。だからこそ、家にいるときの小さな変化やサインを「あれ?」と思ったら、ひとまず「ん?ちょっと気をつけて見ていこう」と改めて意識したいですね。
サインを見逃しても、子どもなりに乗り越えていくこともよくあるケース。「神経質になりすぎないこと」と「注意深く見守ること」を両立させるのは難しいところですが、いずれにしても、子どもの変化に関心を持つことが大切ではないでしょうか。