医学論文に、なぜ「ポケモン都市」が!? 掲載料をぼったくる悪質な出版社をあぶり出すための罠だった

ドクター備忘録

松本 浩彦 松本 浩彦

 私どもの世界では有名な話ですが「ハゲタカジャーナル」ってご存知でしょうか。医学論文は伝統と権威のある学術誌に論文を投稿してまず査読を受けます。

 査読者は厳選された世界一流の医学者で、必ず難癖をつけてきます。文章を書き直したり、データを解析し直したり、実験をやり直したり、査読者と丁々発止を繰り返し、晴れて受理され一流学術誌に掲載されることは大きな名誉です。ところが時代の流れで、紙ではなくネット上に論文を掲載するシステムが増えてきました。一流誌でも同様です。それに便乗して、実体のない出版社が名前をちょっと変えた雑誌を出版し、執筆者を集め始めたのが十年ほど前です。

 以下の論文は出版社にアクセプト(受理)された後、掲載料を支払わなかったため発表されてませんが「ショウヨウシティにおける新型コロナ感染とズバット消費量の関係」というタイトルです。ショウヨウシティとは、ポケモンに出てくる架空の都市の名前です。新型コロナ患者が四二〇人発生して死亡者が七人で、その原因としてズバット(コウモリ型ポケモン)の消費量が関係しているという内容です。

 もちろん全く架空のふざけた論文です。著者名はワカバタウンでポケモンの研究をしているウツギ博士になってます。架空の著者・架空の内容・架空の文献を引用した嘘八百の論文を投稿したわけです。その真意はひとつ。貧弱な論文を受理して掲載料をぼったくる悪質なハゲタカジャーナルをあぶり出すことです。見事に引っかかったジャーナルからは、論文受理の連絡とバカ高い掲載料の請求書が届いたそうです。立派な学術詐欺です。

 この著者、ポケモンを題材にしたニセ論文をいくつも投稿しているのですが、必ず「この論文を出版する雑誌は、ハゲタカジャーナルです」という文章が入っています。出版社サイドはそもそも論文を読んでないので素通りでアクセプトされます。洒落の効いたハゲタカジャーナルあぶり出し、私は応援してます。

出典:Cyllage City COVID-19 Outbreak Linked to Zubat Consumption. Utsugi E, et al. Am. J. Biomed. Sci & Res. DOI:10.34297/AJBSR.2020. 08. 001256

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