「当事者の声を潰さないで」性風俗で働く人を描いた漫画に大きな反響…「職業差別」に切り込んだテーマに賛否両論

竹中  友一(RinToris) 竹中 友一(RinToris)

Twitterに公開された漫画 『性風俗で働くひとってどんなひと』が話題となりました。“漫画家志望”として創作活動をされている佐海ずうさん(@mohumohutikuwa)が制作したもので、その業界で働く人たちを描いた作品です。

主人公の「とと」さんは、セックスワーカーの仕事を楽しく行ってはいますが、風俗に対する世間の風当りを日々感じたり、また自身がこの業界で働き続けることに不安を覚えたりもしています。彼女と同じ仕事に就く仲間たちも、それぞれの事情や思いを抱えていました。

そんななか、ととさんは彼氏に仕事のことがバレてしまい、一方的に仕事を辞めるように言われてしまいます。

このように、漫画では風俗業に従事する女性たちを軸に、業界に対する社会の誤解や偏見、世論に直面しながら働く彼女たちの悩みや葛藤が描かれています。

事実、近年の性風俗業界では、新型コロナの経済対策としての給付金が支給されないという決定がなされたり、風俗嬢が客に刺殺されたりなど、残念な出来事も多くありました。作中では、それらに対して登場人物たちが思いを語り合う場面もあります。

普段、なかなか語られることのない業界の内側を描いた漫画。読者からの反響も大きく、ツイートのリプ欄や引用リツイートを通じて、実に多くの感想が寄せられました。

「こういう話は考えさせられますね。社会に当たり前にあり使う人も多く、なのに社会から批判があり整備も不十分。目的は様々ですが少なくとも仕事に対し個を確立している人に風評だけで判断はしちゃいけないなと思いました」
「やはり、世の中まだまだ色んな職業に対する偏見が多いと思います。そんな中でも、自分の『好き』をモットーに働いている方は、本当に素敵だなと思います」
「こういう仕事って下に見られたり無駄に危険視されたりする風潮があるから、このマンガは本当に価値がある」
「職で可哀想、不健全とか、その言葉がどれだけ傲慢か」
「職業に貴賤はない…ありふれた言葉だけど、案外本当の意味で理解している人が少ないと思う今日この頃…」
「少し違うお仕事ですが、言いたいことが詰まってた。何も悪いことをしてる訳では無いのに、需要があって供給があるのに、なぜか肩身の狭い想いをして生きていたから」

このような肯定的・好意的なコメントもある一方で、「性風俗には、売春や人身売買の側面があることも否定できない」「本当の“当事者”の見解はどうなのか」「(主人公について)彼氏には仕事のことを話しておくべきだったのでは」というような指摘もあり、Twitterでは賛否両論の意見が飛び交っています。

そして、「トマトの写実的な絵のギャップに惹きつけられた」「最後にリアルな口元が描かれている場面で『ようやく話ができた』ということが伝わってきた」など、漫画内の描写や表現の素晴らしさを称える声もありました。

登場人物のモデルは作者の友人

性風俗業界に携わる人たちの内面にスポットを当てた佐海さんの漫画。実は、制作のきっかけは、佐海さんの親友がセックスワークを始めたと話してくれたことだったそうです。実際、作中には当事者である佐海さんのご友人たちの実体験もかなり描かれているとのこと。

佐海さんのTwitterでは、今回の漫画制作にあたってキャラクターのモデルとなった人たちのインタビュー動画も公開。報道や世論に対して感じていることなど、実際にその業界に携わる人たちの「生の声」を聴くことができます。

「当事者の言葉を世論で潰さないで」

作中では、世間や社会の性風俗業界への誤解や偏見に苦しむ、主人公たちの姿も描かれます。

報道内容などから、かわいそうと思われたり、悪印象をもたれたり――一方的な見方をされ、自分たちの声は周囲には届きません。

「職業差別をやめて。当事者の声を世論で潰さないで。これでようやく会話ができるの」

物語終盤、主人公のととさんが彼氏に言ったこのセリフに、作者である佐海さんの想いが詰まっているといいます。

また、作者である佐海さんはこのようにも話します。

「私はセックスワーカー当事者ではありませんが、私もまたスティグマ(烙印。病気などの理由によって、周囲から不当な扱いを受けること)のある属性をもった人間なので、(作品のモデルになった)友人の話には共感できる部分が多くありました」(佐海さん)

実際、根強い職業差別の風潮が残る仕事がこの世に存在する事実や、職業以外にも世間の偏見に苦しんでいる社会的マイノリティが存在していることは、大きな社会問題。そのような方々の想いが受け入れられる社会づくりを行うことは、とても大切です。「性風俗」はその代表例といえるでしょう。

そう考えると、これはさまざまな人が関心をもつべき深いテーマといえます。

本作について、佐海さんにより詳しくお話を聞きました。

――深いテーマ性があるという点で、ストーリーも素晴らしいと感じましたが、表現上の演出なども工夫されているように思いました。

佐海さん:いわゆる善人、悪人/美人、不細工といったステレオタイプな先入観を持って作品を読んで欲しくなかったので、人物の顔はすべて同じにしています。

――なるほど、佐海さんのポリシーを感じます。そんな本作ですが、賛否両論交えてたくさんの反響がありましたね。作者としてどう感じ、どう受け止めていますか?

佐海さん:リプ欄、引用等でお互いの認識や感想、実体験を話し合う場面を拝見し、それに関しては嬉しく思っています。現実世界で、見ず知らずの人とセックスワークについて議論する機会は少ないと思うからです。ただ、これはあくまで「漫画」という創作物なので、これだけで分かった気になるのではなく、ニュースに目を向けたり、現実世界にいる誰かの訴えに真摯に向き合う必要があると思います。

――作品のテーマである「世論や偏見で判断され、本当の声を聴いてもらえない」ということについて。このような風潮に対し、どのような心がけや対応が必要だと思いますか?

佐海さん:とにかく傾聴することだと思います。そして、自分に見えている世界のみが現実であると決めつけないこと。たとえ同じ属性を持った人同士でも、人間の数だけまったく違った世界があると私は思います。

■佐海ずうさんのTwitterはこちら

 →https://twitter.com/mohumohutikuwa

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