その薬用ハミガキ、フッ素の量足りていますか? 「70歳代の65%が根面う蝕」歯科医芸人が解説

山本 智行 山本 智行

 アメリカから帰国後、鳴りを潜めていた歯科医芸人の”パンヂー陳”こと陳明裕さんが沈黙を破りました。このほど日本歯科保存学会が虫歯治療に関する診療ガイドラインを公開したというのです。キーワードはフッ素。薬用ハミガキには配合されていますが、専門家によると、その量が問題なんだそうです。(聞き手・山本 智行)

――陳先生、ご無沙汰してます。最近は歯科界に大きなニュースはないんですか?

陳明裕(以下陳):ありますよ。10月に、日本歯科保存学会が「根面う蝕の診療ガイドライン-非切削でのマネジメント」を公開し、大きな話題になりました。

――なんですか、それ。そんなん、私の周りでは1ミリも話題に上りませんでしたけどね。そもそも、コンメンう蝕って何ですのん?

陳:根面う蝕っていうのは、歯の根っこの虫歯の事で、ガイドラインによりますと「わが国の70歳代の65%、80歳代の70%が根面う蝕に罹患しており、今後、高齢者においてその増加が確実視されている」との事ですから、まさに山本さんの、今後のために出されたような指針ですよ。

――歯の根っこって、虫歯になんかなりますか?

陳:山本さんも年齢とともに、記憶力や体力と同様に歯茎のラインも低下して、若いころは歯茎に隠れていた歯根が露出して来ます。歯冠表面のエナメル質に比べて歯根表面のセメント質はう蝕に対する抵抗性が弱い上に、年齢とともに唾液の分泌量が減ったりして、根面う蝕を作りやすくなりますが、その治療法についてのガイドラインが出されたんです。

――虫歯ができたら削って詰めるしかないんでしょ?

陳:そんな乱暴な。僕が歯科大の学生の頃は確かにそうだったんですが、2000年に「国際歯科連盟」によって「ミニマルインターベンション歯科治療Minimal Intervention Dentistry(MID)」の理念が提唱されてからは、歯質や歯髄の犠牲を最小限に抑え、悪いところだけを削合して修復する治療が浸透して来ました。

――なるほど。

陳:日本歯科保存学会が2017年に行った調査によると「根面う蝕を重篤化させずに回復を図るセルフケアや在宅でのマネジメントとして、フッ化物利用による非侵襲的なう蝕処置の重要性が増しており、このため、その治療指針を示す診療ガイドラインが必要とされている」のだそうです。

――ミニマルって、聞いたことないです。インターベンションも。

陳:分かりやすく言うと、いままで根面う蝕を削って治した方が良いという歯医者と、削らないで治すという歯医者がいて、どっちを選択したらよいのか患者さんが決めかねる場合が多かったので、学会でその指針を示したということです。

――つまりは?

陳:欠損の浅い初期活動性根面う蝕は、まずはフッ素入り歯磨剤と洗口剤(0.05%フッ化ナトリウム配合)で再石灰化を試みることは「科学的根拠があり、行うよう勧められる」そうです。ですから根面の浅い虫歯は削らないで、高濃度フッ素入りの歯磨剤や洗口剤で治した方が良いとのことです。

――へー、じゃあ、ちっちゃな虫歯ぐらいなら歯医者に行かなくてもいいってことですか?

陳:いえいえ、ガイドラインでは「歯科医師による定期的なチェックが必須である」となってますから歯医者には来なくてはいけません!

――何でですのん。患者さんが来なくなったら歯医者が困るから…。

陳:そうそう、ただでさえコロナで患者さんが減って、われわれ歯医者は困ってますからねって、違います!そもそも削って詰める充填治療の様にその場で治るわけではありません。「1~2年間の長期にわたるフッ化物配合洗口剤の使用を(患者さん)全員が受け入れるか疑問」ですし「フッ化物洗口による上乗せ効果を得るためにはフッ化物配合歯磨剤を使用したブラッシングが必須であり、セルフケアが実行可能であるかどうか」の確認も必要ですから、各患者さんの状況に合わせた臨機応変な対応が必要となるからです。

――いずれにしろ、きょうから、うがいと歯磨き、頑張らなあきませんね!

陳:いままで頑張ってはらへんかったんですか?それに洗口剤や歯磨剤もどれでもいいって訳ではないんです。ガイドラインでは「フッ化物配合歯磨 剤(1100~1400ppmF)にフッ化物配合洗口剤(250~ 900ppmF)を毎日併用することにより、永久歯の活動性根面う蝕が回復する(硬くなり、 非活動性になる)。よって、永久歯の活動性根面う蝕の回復に、本法を提案する」と言ってますので、含有フッ化物の濃度が重要です。

――最近の歯磨剤は大抵フッ素配合って書いてますけど!?

陳:はい、日本で売られている歯磨剤の90%以上にフッ素が入ってはいますが、濃度は様々です。2017 年にやっと、含有フッ素濃度の上限が、世界基準であるISO規格濃度と同様の1500ppmに引き上げられましたが、それまではフッ素は含有しているものの、非常に低濃度の歯磨剤ばかりでした。洗口剤も色々な濃度のものがありますので、ご自身で判断なさらずに、かかりつけの歯医者さんにぜひ、ご相談ください。

――ちょっとくらい濃度が違っても入ってたらいいんと違うんですか?

陳:うな丼にかける山椒やったらちょっとでも十分効果があるんですが、フッ素の場合、濃度が重要です。WHOによりますと、1000ppm以上のフッ化物イオン濃度では、濃度が500ppm高くなるごとに、6%の虫歯予防効果の上昇が得られるそうです。逆に高すぎても色々問題が出てくる可能性もありますので、歯科医の管理は必須です。

――じゃ、今度、陳さんの医院に診てもらいに行こうかな。

陳:はい。でも、これからは「旧来の“drill and fill”中心のう蝕治療法からの脱却と、MIDの理念を基本としたう蝕治療法の普及が望まれる」そうなので、山本さんがうちの医院に来られても、サービスでチョット大きめに削ってあげられませんよ。

――あらまー、それは残念って…。そんなサービス、元々、いりません!

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