適正に飼育できる頭数を越えた結果、動物が飢えや乾きに苦しんで命を落したり、異常繁殖が起きてしまったりする多頭飼育崩壊は近年、後を絶たない。そんな悲惨な現状と向き合い、動物の保護活動に取り組んでいるのが、みや猫活動さん。犬のしつけ教室やトリミングも行うペットホテル「ドッグプランニング」を、岐阜県土岐市で経営する、みや猫活動さんは今年の10月上旬、多頭飼育崩壊が起きた高齢者宅で多くの猫を救出した。
孤独死した老人宅で発生していた多頭飼育崩壊
ことの発端は、みや猫活動さんのもとに「独居老人が亡くなり、大量の猫が家に取り残されている」という相談が入ったこと。
家に残された猫たちは近所の人からご飯を貰っていたが、住民の中には猫が嫌いな人もおり、保健所へ連絡が入ってしまったそう。相談者はどうにか殺処分を回避したいと思い、みや猫活動さんへ連絡をしてきたのだ。
そこで、みや猫活動さんは保護仲間である友人に連絡。その友人と繋がりがある「ねこカフェ New Journey」(愛知県春日井市)のオーナーらと共に、現場へ向かった。
猫たちの飼い主であった独居老人Aさんは子どもの頃から、その家で家族と暮らしており、兄妹が自立した後も、ひとり残り、細々と暮らしていたそう。親戚とは疎遠で、近所づきあいもなかったAさんは孤独感を紛らわすためか、野良猫にご飯をあげ、家の中に連れ込み、育てるようになった。
不妊手術を行っていなかったため、猫たちは繁殖。近隣住民はAさん宅のゴミや悪臭に困り、なんとかしてほしいと訴えたが、状況は変わらなかった。
そして、今年の10月上旬。用事があったため、近所の方が家を訪ねたところ、室内でAさんは孤独死していたそう。
Aさんの親族に立ち会ってもらい、足を踏み入れた現場はAさんが生きていた頃から適切な飼育がなされていたとは思えないほど、荒れ果てていた。
Aさん宅は、ゴミと猫たちの糞尿の中で何年も寝起きしていたことがうかがえるありさま。
「ご高齢だったので、猫のお世話まで手が回らず、何年もの間、人間も動物も住める場所ではなくなっていたのではないかと思います」
「猫たちのトイレはいくつかありましたが、お世話しきれず、諦めてしまったように感じました」
猫たちはAさんが生きていた頃から、満足にご飯を食べられていなかったようで、貧血や脱水が見られた。この家では、人も猫もギリギリの状態で生きていたのだ。
疎遠だったAさんが育てた猫は、自分たちには無関係。親族はそう口にしたため、みや猫活動さんらは20頭近くいる猫を全匹レスキューすることに。初日には、10匹を救出。残りの子は、捕獲機を設置して捕まえることにした。
人に飼われていたからか、猫たちに攻撃性はなく、数匹は素手で捕獲できた。だが、入院が必要な子や保護後に感染症で亡くなってしまった子などもおり、みや猫活動さんは心を痛めた。
救出した中には、生後間もない乳飲み子も。母猫を移動させる際、タンスと壁の間に落ちていることに気づき、救出したこの子は低体温で衰弱しており、保護後、命を落とした。
また、数日後、再び現場を訪れた際に、みや猫活動さんは新たに3匹の子猫を発見。
「生まれて半日も経っていない様子でした。現在、入院治療していますが、風邪もひいていたので、危険な状態です」
十分な栄養を得られていないため、おっぱいが張っている猫がおらず、子猫たちの母親は不明。
「レスキューした成猫の中には出血し、お腹に子猫が残っている子もいました。状態が悪い中での妊娠・出産によって命を落とした猫もいただろうなと感じましたね」
多頭飼育崩壊を減らすカギは「孤独を生み出さないこと」
みや猫活動さんは、過去に無責任なエサやりで野良猫が増えた多頭飼育崩壊現場に赴いたこともある。
「こういうケースでは、不妊手術をしても全頭を元の場所に戻すことは難しいことが多いので、人馴れしている子の里親を探して、その場所で適切に管理できる頭数まで減らしていきます」
悲惨な現状を数多く目にしてきた、みや猫活動さん。そうした中で、多頭飼育崩壊を減らすカギは「孤立を生み出さないこと」だと感じるようになった。
「高齢者に限らず、孤独な状態の方が拠り所として飼い始めたものの、不妊手術まで手が回らず増えていくことは多い。そういう方は近所だけでなく、身内とも縁が遠くなっており、猫の糞尿や鳴き声などで近隣の方と仲良くできず、ますます孤独になっていく。孤独にさせないことは、多頭飼育崩壊を解決する大切な要素であると思います」
なお、みや猫活動さんは多頭飼育崩壊に向き合うだけでなく、保健所に持ち込まれた猫を引き出して里親を探したり、猫を拾った人の相談を受けたりと、あらゆる角度から命を紡ごうと奮闘。活動記録を投稿しているインスタグラム(@yuko9124)では支援を募っている。
動物には人の心を和ませてくれる力があるが、癒しを与えてくれるだけでの存在ではない。人間と同じように排泄をし、感情があり、栄養のある食事も必要とする生き物だ。
そうしたことを胸に刻み、どうしたら目の前にいる命を幸せにできるのか、今の自分は小さな命を本当に守り抜けるのだろうかと考え、動物を迎えてほしい。