歌舞伎俳優の市川海老蔵が23日に更新したブログで、「かなしいです。また削られています」「祖父の墓石と九代目の墓石」と先祖の墓石が削られていることを写真付きで投稿し、「やめてください。お願いします」とこれ以上削らないように求めた。墓石を削ることはどのような罪に該当するのか。かつてアイドルとして歌手デビューも果たし、弁護士に転身した平松まゆき氏にQ&A方式で解説してもらった。
Q 他人の墓石を削ることはどのような犯罪が考えられますか。
A 皆さんがはじめに思いつくのは器物損壊罪(刑法261条)ではないでしょうか。「損壊」には物理的な毀損はもちろんですが、効用を侵害する行為のことを指しますので、落書き程度であっても「損壊」にあたります。器物損壊罪は三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料です。今回の海老蔵さんの件は、少なくとも器物損壊罪の成立が考えられるところですが、行為がエスカレートすれば墳墓発掘罪(刑法189条)の該当もありうると思います。
Q 墳墓発掘罪って初めて聞きましたがどんな犯罪なんですか。
A 実は刑法は、器物損壊罪だけでなく、墓地や礼拝所等に対する迷惑行為、妨害行為等について個別に定めを置いています。まず墳墓発掘罪にいう「墳墓」とは死者を祭り、礼拝の対象となる場所のことをいいます。この犯罪が保護しようとしている法益は、墓地及び死者に対する宗教的崇敬感情と考えられています。ですから、史跡ではあっても、現代においてもはや祭祀礼拝の対象とされなくなっている古墳はこれにあたりません。次に「発掘」とはお墓を掘りおこしてお墓を覆う土を取り除いたり、墓石を破壊したりすることを言います。深々と掘りおこして内部の棺桶等を外部に露出させるところまで至らなくても、「発掘」にあたるとされています。墳墓発掘罪は二年以下の懲役です。
Q ほかにも関連する罪はありますか。
A 礼拝所不敬罪(刑法188条1項)や、説教等妨害罪(同2項)なんていうのもあります。以前、写真家の篠山紀信さんが青山霊園でヌード撮影をしたことで、礼拝所不敬罪等で略式起訴されたことが話題になりましたね。こうした刑法の規定は、国民一般の宗教感情を保護するために設けられたものですが、昨今の新興宗教問題で、どこまでが本罪の保護の対象になるか、議論されているようです。