広島にある犬の保護・譲渡活動を行うピースワンコ・ジャパン(ピースワンコ)。広島県内の殺処分対象の犬を引き取り、過去7000頭以上を助けてきた団体です。「ドリームボックス」という犬の殺処分機の稼働を止め、日本全国の犬の「殺処分ゼロ」の実現を目指しています。
同団体では健康なワンコだけを保護しているわけではありません。その中には高齢の犬、病気や怪我、障害を抱えているワンコもいます。こういった特別なケアが必要なワンコは残念ながら、健康な保護犬に比べて里親さんが見つかりにくいのが現状です。しかし、そんなワンコに目を留め、家族として迎える人が全くいないわけではありません。今回ご紹介の保護犬・ウヴェの新しい里親さんもそのうちの一人でした。
両目の治療に至らず摘出手術で義眼になったウヴェ
ウヴェは、2018年に動物愛護センターから引き出されたワンコです。生後1ヶ月くらいだったウヴェは両目を患っており、獣医さんが治療してくれたものの治癒できず、両目摘出手術をすることになり、義眼になりました。
目が見えないウヴェですが、一方の耳や鼻はかなり敏感。感覚が鋭敏になっているため他のワンコの声や気配がすると落ち着いて過ごすことができませんでした。
「ウヴェがリラックスして暮らせるように」と、スタッフは個室を用意したり、ケージの上にブランケットを掛けたり、様々な工夫をしながら大切にお世話をしました。
他方、ウヴェは好奇心旺盛で人懐っこく、物のにおいを嗅いだり音を聞いたりして場所を覚えるのが得意なワンコです。ドッグランで元気に走り回ったり、スタッフに前足をかけて甘えてきたりすることもよくありました。障害を抱えながらもスタッフにかわいがられてのびのびと過ごし、いつか里親さんと出会えるようにトレーニングを重ねていきました。
ウヴェの耳の良さに感動。「この子と一緒に暮らしたい」
ある日のこと、ウヴェに運命の出会いが訪れました。施設入口の右手に置かれたウヴェのケージに目を留めてくださった女性がいました。施設の見学に来られた、ソプラノ歌手のコロンえりかさんという方でした。
コロンさんは「盲目で両目義眼」という紹介文がまず気になったそうです。そこで小さい声で「ウヴェ」と名前をささやいたところ、ケージからウヴェが出て来てコロンさんに挨拶に来ました。
周りで何頭ものワンコが吠えている中で、小さなささやき声だったのにちゃんと聞き取り挨拶に来てくれたフレンドリーなウヴェ。コロンさんは「この子は何て耳が良いんだろう!」とビックリし、その瞬間に「この子と一緒に暮らしたい」と思ったと言います。
「全くそんなことを考えずに見学に来たので、むしろ自分の気持ちに驚きました。私がそれを考えて計画して願っていたわけではなくて、多分ウヴェがそういう風に思わせてくれたんだろうなと思って。特別なワンちゃんとの出会いにとても感謝しています」(コロンさん)
里親さんが監督を務める合唱団の名誉メンバーに!
果たして、ウヴェはコロンさんのもとで生活することが決まり、同団体を卒業することになりました。ウヴェの卒業が決まった際、シェルターではスタッフの歓声が響き渡りました。病気や障害がある子は多くのスタッフが関わってお世話をしているため、大勢のスタッフがウヴェのことを気にかけていたからです。卒業を知ったスタッフ達は、笑顔で喜びあいました。
後に、ウヴェはコロンさんが芸術監督を務めている「ホワイトハンドコーラスNIPPON」の名誉メンバーに就任。「ホワイトハンドコーラスNIPPON」は、ウヴェのように目は見えない子も、耳が聞こえない子も、その友達も、多様な子どもたちが互いの力を合わせて活動するというユニークな合唱団で、ウヴェも一緒に活動中です。
ウヴェがコロンさんと出会って卒業していったように、障害や病気があるワンコも新しい家族とのご縁に繋げられるよう同団体では今日も保護・譲渡の活動を続けています。一頭でも多くのワンコの命が救われ、第二の犬生をおくれることを願うためにも、今後も同団体の動向にも是非ご注目くださいね。