赤字経営の地方鉄道、「1日全線無料」は無謀!? 「正気ですか」「素晴らしい」と賛否両論の企画、鉄道会社の狙いは?

中河 桃子 中河 桃子

「10月16日は、近江鉄道は一日運賃無料です。よろしくお願いします。米原から貴生川まで乗っても、往復しても、一日中乗り続けても、運賃無料です」と1日限定で、全線無料をTwitterで発表した滋賀県の私鉄・近江鉄道(@OHMI_railway)。同社史上初のみならず、関西圏の鉄道会社としても初の試み。担当者に話を聞きました。

近江鉄道は、滋賀発祥の「西武グループ」を構成する企業のひとつ「近江鉄道グループ」の鉄道部門。米原から貴生川まで、琵琶湖の東側を南北に走っています。

JR琵琶湖線の米原駅や彦根駅、近江八幡駅などから乗り入れでき、定番の観光地から足を延ばしてお出かけができるコアな観光鉄道であるとともに、地元民の暮らしを支える重要な交通機関でもあります。

地元民から「ガチャコン」の愛称で呼ばれるほど親しまれていますが、全国各地の地方鉄道同様に、赤字経営や鉄道そのものの存続の危機に直面しているのも事実。そんな中での「全線利用無料」は、大きな反響を呼びました。

Twitterでは「素晴らしい企画ですね‼︎」「満喫するぞーーー‼️」「この機会を通じて皆さん。近江鉄道のファンになろう」など盛り上がりをみせた一方で、「何で、損なことできるんや?」「正気ですか?」「どうした、潰れるんか?」と疑問視する声も。

近江鉄道はどのような思いから企画したのか、広報担当者に話を聞きました。

「企画に心配の意見もありましたが…」

――企画された背景は?

「自動車社会が加速している滋賀県では、鉄道に乗ったことのない地域住民が増えています。今回、乗車賃を無料にすることで、当社の認知向上も含め、乗車を体験いただく機会を積極的に設けることにしました。

また、鉄道には魅力ある地域の観光地や居住地が必要です。コロナ禍で落ち込んだ沿線各地の利用客を呼び戻し、活気ある街にすることを目指しました。鉄道には道路の渋滞を緩和する側面もあります。できるだけ多くのお客様にご乗車いただき、鉄道の良さを感じていただければ」

――経営が苦しい中での開催について、社内の反応は?

「鉄道部の社員が発案した企画に、心配の意見もありましたがおおむね賛成でした。

と言うのも『とにかく一度私たちの電車に乗っていただきたい』という強い思いを多くの社員が抱いていたからです。乗車していただかなければ私たちの良さを知っていただける機会もなく、新しいお客様の獲得にもつながりません。

ですから、社員が『確かにそう思われても仕方ない』とTwitterの反対コメントに共感はしていたものの、社内では “10月16日を盛り上げよう!”という雰囲気です」

――全線無料にすることで、さらなる赤字を招くのでは?

「実は鉄道事業は、長年赤字経営です。しかし、地元の暮らしを支える社会的使命がある限り、事業をなんとか存続させたい。

その思いから、滋賀県ならびに沿線10市町と協議した結果、2024年より電車の運行を近江鉄道が、線路などの維持管理を自治体が担う「上下分離方式」を採用することになりました。確かに経営は苦しいですが、1人でも多くのお客様にご乗車いただくことが急務だと考えました」

――今回の企画で期待していることと懸念点は?

「ふだん利用されていない沿線の方にも乗車の機会にしていただき、鉄道をもっと身近に感じてもらえるきっかけづくりにしてしただきたいです。また多くの方に乗車いただき沿線各地のイベント、観光地への誘致を行い、沿線全体の活性化に繋げていきたいと思います。

懸念点は、利用者数の把握が当日でないとわからない点です。関西の各私鉄さん、JR西日本さん、名古屋鉄道さんにご協力をいただき、チラシを置かせていただいたり、ポスターを貼らせていただいたりしていますが、どれだけ周知されているかは具体的にはわかりっていません。現時点では、近江鉄道の1日平均乗車人数は、約3100人(定期外、年間利用者を1日単位で算出)ですので、この3倍の利用を見込んでおります」

――当日は利用客にどのように楽しんでほしいですか。

「普段鉄道をご利用されていない方にも、今回の電車無料デイで近江鉄道ならではの自然に囲まれた景色を楽しんでいただきたいですね。

当日は沿線各地で協力団体が様々なイベントも開催します。当社の『ありがとうフェスタ』も含めてお立ち寄りください」

◇ ◇

『ありがとうフェスタ』は、「近江鉄道グループ」が2010年から開催している、お客様感謝イベント。当日の10月16日は、会場となる近江鉄道彦根駅(JR琵琶湖線彦根駅)の東口特設会場にて、大道芸やトークショー、ひこにゃんなどがお披露目されるほか、同社グループ会社の車両(バスやラッピングタクシー)の展示や、飲食販売などを実施。

また、連携イベントとして、各自治体が城下町散策ツアーや、日本酒蔵の試飲会、ウォーキングツアーなど各種イベントが近江鉄道沿線で開催されます。

また沿線には、大阪の「京セラドーム大阪駅」と似すぎているとして話題の「京セラ前駅」をはじめ、“お多賀さん”の名で知られる古社・多賀大社や、アニメ『けいおん!』の舞台となった豊郷小学校旧校舎、ミシュランの星付き料理人を多数輩出してきた国内屈指の日本料理店「招福楼」など、名所旧跡、名店が点在。全線無料を活かして、各所に足を運んでみては。

近江鉄道公式Twitterアカウント:https://twitter.com/OHMI_railway
近江鉄道公式HP:https://www.ohmitetudo.co.jp/
ありがとうフェスタHP:https://www.ohmitetudo.co.jp/icoico/event/festa/

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