山陰両県では珍しい本格的な冷凍ラーメンの自動販売機が、鳥取県米子市内のラーメン店にあるという。どんな自販機なのか興味を引かれ、現地を訪ねた。
ラーメン店は米子市淀江町西原のラーメン悟空。米子市内の国道9号を東に進み、日野川を越えてから約3キロ行った所にある。
創業は2005年で、看板商品は米子市民に人気の牛骨ラーメン。国内産の牛骨を弱火で半日以上煮込んでだしを取り、濃厚かつ飲みやすいスープに仕立てている。チャーシューは創業当初からのたれを継ぎ足し続け、豚の腹部分のバラ、ほほから肩あたりのトロのほか、腕やももといった多様な部位の肉を提供する。低温調理のレアチャーシューといった一味違った調理方法もある。
「毎日食べられるラーメン」を掲げ、ラーメンへのこだわりだけでなく、野菜やから揚げといったセットメニューも豊富にそろえる。鮮やかな赤色が目立つ店舗の前には開店前から行列ができ、開店と同時に席が埋まるほどの人気店だ。
調理にかかる手間はインスタントラーメン並み
自販機は全国で人気の冷凍自販機「ど冷(ひ)えもん」で、入り口のすぐ横にある。店舗と同じ赤色が目印。高さ約1・8メートル、幅約1・2メートルで、お金を入れてタッチパネルを操作して購入する。
メニューは5品目で、自販機限定メニューの「極厚チャーシューと牛骨ラーメン(1食入り900円)」をはじめ、人気の「牛骨塩ラーメン(2食入り1200円)」、「がらしょうゆラーメン(同)」、「トロ丼(2食入り900円)」、「極厚肉塊チャーシュー(2個入り千円)」。せっかくなので、限定の極厚チャーシューと牛骨ラーメンを買ってみた。
タッチパネルを操作して買うと、袋に入った冷凍の生麺やスープ、そして分厚いチャーシューが入った大きめのパックが出てきた。スープとチャーシューの袋は湯煎した後、手鍋に移して弱火で温め、麺は沸騰した湯で2、3分ゆでる。これらを丼に盛り付ければ完成だ。インスタントラーメンに一手間加わった程度で、パックには作り方を書いた紙が入っているため、誰でも手軽に作れる。
店舗で食べたことがあるが、自販機のラーメンは初めて。さすがに店舗と同じような味は難しいのではと感じて口に入れたが、店舗で普通に食べるものと大差ないように感じた。厚さ3センチはあるチャーシューはできたてのようにトロトロで食べ応えがあり、お店で食べる通常のラーメンよりもお得に感じるほどだった。
店舗の味に近づけるため、冷凍技術について研究
ラーメン悟空の林原尋生社長(42)によると、自販機は7月に稼働した。もともとは中浦食品米子営業所(米子市皆生温泉1丁目)に設置された冷凍自販機のメニューの一つとして、3月に試験的に牛骨ラーメンを出したところ好評だったため、自社での導入を決めた。
新型コロナウイルスの影響で非接触、非対面で物品を販売できる自動販売機への注目は高まっている。林原社長は「コロナ禍で、店内販売だけでは難しいと思っていた。自販機は感染対策だけでなく、遠方から来てお土産用に買いたい人や、店に長時間並ぶのを避けたい人にとっても便利だ」と設置の目的を話した。自販機の価格は店舗の価格と同じにしている。
店舗の味に可能な限り近づけるため、適切な冷凍技術について研究した。スープが酸化しないよう急速冷凍するための機材を導入し、チャーシューは調理後に真空パックで保存する。新たに、チャーシューのような食肉製品を加工し、自販機で扱うために必要な、食肉製品製造業の許可を取った。ラーメン屋で許可を持つのは珍しいという。
こだわりのラーメンは自販機で24時間いつでも買える。客からは「待たずに買えてとても便利」と好評で、多い日は一日に60個が売れるそう。
米子市は牛骨ラーメンを軸にした地域振興に乗り出していて、地域の主要店舗を集めた「米子牛骨ラーメン同盟」を9月22日に立ち上げたばかり。ラーメン悟空も名を連ね、林原社長は「自販機のメニューを随時拡張しながら発信を強化し、米子の牛骨ラーメンを全国区のブランドにしていきたい」と意気込んだ。
自販機で人気店舗の味をほぼ100%再現したラーメンが手軽に味わえるのは魅力的。満席の店に足を踏み入れにくい、自宅でゆっくり食べたいという人にとっても朗報だ。女性でラーメンは食べたいけど店には入りにくいという人も多い。特に自販機限定の極厚チャーシューの驚くべき厚さは、実際に自販機を利用して確かめてもらいたい。
ラーメン悟空の冷凍ラーメンは中浦食品米子営業所のほかに、株式会社カミナリ(米子市米原6丁目)、JU米子高島屋店(米子市角盤町1丁目)、JR米子駅(米子市弥生町)、JR鳥取駅(鳥取市東品治町)の自販機でも販売している。ラーメン悟空の営業時間は午前11時~午後4時、午後5~10時。定休日は水曜。