「懐が広すぎ」と市長の名刺が話題に 怖すぎるカッパに大変身する仕掛けに「名刺交換が盛り上がる」「これは欲しいです」

谷町 邦子 谷町 邦子

二つ折りのカードを開くと市長がカッパに変身するユニークな名刺が、話題となっています。一度見たら忘れられない、個性の強い名刺はどのように誕生したのか。名刺づくりに携わったデザイナーと、オーダーした市長に話を聞きました。

ツイッターでデザインを投稿したのは岩手県遠野市在住のデザイナー、阿部拓也(@abetaku_nohala)さん。遠野市の多田一彦市長から、「インパクトが欲しい」とのオーダーを受けて名刺をデザイン。閉じている状態の名刺には、日本画風の多田市長のイラストが、名刺を開くとカッパが描かれています。

そのカッパはみんながイメージするような緑色ではなく赤褐色で、口が大きくキバが生えていて、耳も尖っていて、怖さを感じさせるビジュアル。ただ、よくよく見てみると、メガネをかけ、どこか温和な表情からは人間味が伝わってきます。このカッパは、多田市長をイメージしてデザインされているそうで、阿部さん自身も「こんな突飛な案を快く受け入れていただいた市長と遠野の懐の深さに感謝です」とコメントしています。

リプライには「素晴らしい案ですね! これは名刺交換する時に盛り上がるのが想像できます」「遠野と言えば河童ですもんね! デザイナーさんも市長も素敵」などのコメントが寄せられ、名刺のデザインが好評であることがうかがえます。

また、「これは欲しいです とても」「さすがの発想とデザイン 多田市長にお会いしてもらいたいです」「これは素晴らしい 毎日散歩している姿を見掛けるから名刺貰っちゃおうかな!?」など、名刺を入手したいという人までいました。強い個性を持ちつつ、かなり好評な名刺ですが、阿部さんにデザインをする上で重視したことなどを聞きました。

「『遠野らしさ』を出すにはカッパしかない」

――モチーフやデザインの案は他にもありましたか。

「市長とカッパを絡ませる、というアイデアは初めから決めていました。カッパに変身させる以外のアイデアとしては、名刺の裏に『カッパおみくじ』のようなものを仕込んでみたり、名刺を持っているだけで永久的にカッパ捕獲が許可されるフリーパス券になる(遠野市には『カッパ捕獲許可証』というものがあります)など、遊び心満載の提案をしました」

――なぜ、カッパをモチーフに選んだのですか。

「柳田國男著『遠野物語』にも登場するほど、遠野市は全国的にもカッパの伝説が有名であり、誰でも親しみを持って理解してもらえる『遠野らしさ』を出すにはカッパしかないと思いました。『昔から遠野に棲んでいるカッパが、いま遠野市長になっている』という設定です」

――どうして緑色ではないんですか。

「遠野のカッパは赤色なのが定説です。柳田國男の『遠野物語』にも記されています」

――遠野のカッパは赤色なんですね! デザインする上で大切にされたことは?

「市長からのオーダーは『インパクトが欲しい』ということでした。名刺をいただいた方が絶対に忘れられないほど強い印象を残すために、イラストレーションや書体、紙質など細部にこだわって世界観を作ることを大切にしました。遠野市を代表する方の名刺なので、ユーモアと市長としての風格のバランスには気を配りました」

――多田一彦市長とカッパを組み合わせてデザインするにあたって、なにか参考にされたのでしょうか。

「カッパのデザインは昔の文献に残っている『水虎之図』を参考にしました。ちなみに名刺の中には遠野市内で河童が発見されたとされている14カ所の『河童淵』の場所を記載しているのですが、こちらの情報も遠野市にある河童に関する資料を参考にしました」

――市長や遠野市からの反応は。

「相手が相手だけに、最初の提案はかなり勇気が要りましたが、すんなり受け入れてくださって逆にこちらが驚きました(笑)。市長の懐の深さを感じました。遠野市からの反応も良く、みなさん面白がっていただけている様子です。改めて遠野は面白い土地だなあと思います。

もし名刺にご興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ遠野に遊びにきて市長に会ってください」

誰もが「遠野市」からイメージしやすい、カッパと市長を組み合わせた親しみやすいデザイン。また、遠野に住み続けていたカッパが市長になったという設定には、ロマンが感じられますね。だからこそ、「ユーモアと市長としての風格のバランス」に気を配ったという言葉には納得させられるものがありました。

受け取った人からは二通りの反応、「おぉ〜」と驚く人と…

さて、一方の多田市長はどのような想いを込めて名刺の依頼をしたのでしょう。そして、初めて名刺を見たときの正直な感想は? 阿部さんがデザインした名刺の前は一般的な名刺を使っていたという市長に聞いてみました。

――はじめに完成した名刺のデザインを見た時の印象は?

「『おぉ~!』ってなりました。『おぉ~、この手があったのか』と。予想を超えるデザインで、求めていたインパクトがありました」 

――阿部さんにお願いされた理由は? 

「デザイナーの阿部拓也さんのファンだったんです。個性がある方なので、最初から期待をしていました。実際に出来上がって非常にセンスがいいな、と思っています」

――名刺の使用はいつからスタートされましたか。

「名刺が完成したのは9月の初句で、できてすぐ使い始めました」

――市民や名刺を受け取った方からはどのような反応がありましたか

「二通りありますね。『おぉ~』と言う方、一瞬固まって、どんなふうに感想を言おうか考え込む方がいました」 

――名刺を通して県内外の方に伝えたいメッセージがあれば、教えてください。

「どうですか? 遠野に来てみたくなったでしょう。一度来たら病みつきになりますよ」

◇ ◇

インタビューからは名刺をとても気に入っていることと、名刺を通してご自身だけでなく遠野市をアピールしたいという想いが伝わってきました。名刺を受け取り「おぉ~」と驚きの声をあげた人も、固まってしまった人も、「遠野市=カッパ」と深く心に刻まれたにちがいありません。2021年に遠野市に移住した阿部さんは、本業のデザインの傍ら、遠野での移住生活をリアル描いた漫画をSNSで不定期連載。「遠野や移住にご興味のある方はぜひご覧ください」とのことです。

■遠野市ウェブサイト -Tono city- https://www.city.tono.iwate.jp
■遠野市移住定住ポータルサイト『で・くらす遠野』 https://dekurasu-tono/jp
■阿部拓也さんのTwitterアカウント https://twitter.com/abetaku_nohala
■阿部拓也さんのデザイン事務所「のはら」 http://nohala.com/

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