前々からちょっと気になっていたのだが、我が家の子供たちが毎日聴いている「中学生の基礎英語」(NHKラジオ)のストーリーが今、なかなか大変なことになっている。主人公はカッパの父と人間の母を持つ少女で、日本からアメリカのミネソタ州まで泳いで引っ越してくるという衝撃の幕開け。このぶっ飛んだ設定はSNSでも話題になり、「どういうこと?」「続きが気になる」「正気の沙汰ではない」など、戸惑いや歓喜の声が相次ぐ事態に。出会った人に「I'm a kappa.」と元気よく挨拶するカッパの少女・川原湖子(かわはらここ)はこれから一体どんな物語を紡ごうというのか。NHKに取材した。
クセが強すぎる自己紹介「I'm a kappa.」
「中学生の基礎英語」シリーズは2021年度に始まったラジオ講座。2年間(レベル1、レベル2)で中学3年間で学ぶ英語を身につけ、「英語でやりとりする力」の基礎を磨いていく番組だ。
カッパの湖子が登場するのは2022年度の「レベル1」。「I'm a kappa.」という、人間のリスナーが現実で使うことはまずなさそうなクセの強い自己紹介もさることながら、湖子の友人になったエミリーが、湖子の母親に「Are you a kappa,too?」と質問し、「No. I'm a human.」と返されるシュールなやりとりもリスナーたちを大いに沸かせた。
1年間続けて聴いてもらうための仕掛け
「突飛な設定にしているのには理由があります」
取材に対し、「中学生の基礎英語」担当デスクの塩塚彩さんはそう明かす。
「英語は継続して聴いていかないと身につきにくい教科です。新年度がスタートしたばかりの4月、5月に挫折してしまう人も少なくないですが、それをどうにか繋ぎ止めて、1年間聴き続けてほしいというのが私たち制作者の思い。そのためにも、テキストのストーリーはなるべく楽しいものにしようと心掛けています」
そういえば2021年度の「レベル1」でも、主要キャラクターの中に何故か「喋るカメラ」という謎の存在がいた。その“正体”が明かされたのは、ようやく2022年1月号のラスト近くになってから。そんなちょっとしたミステリ的な仕掛けが印象的だったが、「ストーリーを楽しみながら継続して聴いてほしい」という制作者側の狙いを知れば、なるほど納得である。
ミネソタで楽しく暮らせるのは…そう、カッパだ!?
では、本年度は何故カッパを主人公に選んだのか。
塩塚さん:「まず、物語の舞台はミネソタなのですが、ストーリーを執筆したのが出演者(パートナー)の1人であるクリス・ネルソンさんで、彼の出身地がミネソタなんです。美しい湖がたくさんあるミネソタで、自然を満喫しながらハッピーに暮らせるのはやっぱりカッパだろうということになり、湖子のキャラクターが生まれました。親を『人間』と『カッパ』にしたのは、両方いる家族の方が多様性があって面白いことが起こりそうだと思ったからです」
ちなみに、ストーリーの作り方は年度によっても違うが、2022年度はネルソンさんと塩塚さんがプロットを持ち寄り、1年間の展開とキャラクターについて協議。各レッスンにどう落とし込んで構成していくかという作業は、ネルソンさんが担当したという。
それでは、「どんな話やねん」とSNSなどで反響を呼んでいることについては、どう受け止めているのだろう。
塩塚さん:「素直に嬉しいです。特に『子供が楽しんで聴いています』といった投稿を見ると、『このために頑張ってきたんだ!』と報われた気持ちにもなりますし、大きな喜びを感じます」
最後に、気になる今後の展開についても聞いてみた。
塩塚さん:「カッパが主人公で驚かれたかと思いますが、『類は友を呼ぶ』といいますか、この先も不思議なクリーチャーが出てきたりするので、ぜひ期待してください。サマーキャンプなど、アメリカの楽しいイベントやカルチャーも盛りだくさん。きっと1年間楽しんでいただけると思います」
カムカムの影響でラジオ英語講座が人気に
ところで、ラジオの英語講座といえば忘れてはいけないのが2022年4月8日までNHKで放映されていた連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」。実は現実の「基礎英語」や「ラジオ英会話」にも大きな影響があったようで…。
NHK出版の担当者:「中学生だけではなく、『カムカム—』を見て中学以来また始めてみようと思った、という大人の方が本当に多いです。テキスト自体、昨年度からすごく売り上げが伸びていて、本年度の『中学生の基礎英語』に関しては4月号と5月号を増刷したほど。朝ドラ効果と、凝った設定のストーリーを面白がっていただいているのを感じます」
「中学生の基礎英語」をはじめ、NHKラジオの語学講座については公式サイトで。今はラジオだけでなく、アプリで聴くこともできるようになっている。