あどけない表情を浮かべ、飼い主のみったまりおさん(@himeouji)の隣で笑う、もんたろすくん。彼には人懐っこい姿からは想像できないほど、頑張った過去が。実はもんたろすくん、虐待を受け、ボロボロの状態で飼い主さん宅に辿り着いた元野良猫です。
下半身に毛がなく、尻尾もない猫と出会って
飼い主さんが初めて自宅の裏庭でもんたろすくんを目撃した時、その体は悲惨な状態。上半身は真っ白なのに、下半身は真っ赤。人間で例えるならば、背中側の腰上から太ももの半ばまで毛がありませんでした。
もんたろすくんは威嚇し、倉庫の隙間へ。そっと追いかけた飼い主さんは、その体に尻尾がないことに気が付きました。
「日が経っていたのか、出血はありませんでしたが、痛々しかったです」
保護したい。そう思った飼い主さんは何カ所かに置き餌をし、もんたろすくんがやってくるのを待ちましたが、フードはいつも、いつの間にか食べられてしまい、捕獲は難航。
しかし、ご飯を上げ続けていると、お皿を置く音を聞きつけて草むらから顔を出してくれるように。おしりに毛が生えてきた頃には、足元でご飯を食べてくれるようになりました。
その後、ご飯が貰える時間になると、外のドアの前で待機してくれるように。その頃にはおしり以外にも毛が生え、触らせてくれるようになりました。
そして、ある日突然、目の前でゴロン。お腹を撫でさせてくれたことに、飼い主さんは嬉しさを感じました。
それから、しばらく経った頃。もんたろすくんが口から血を出していることに気づき、急いで病院へ。検査の結果、免疫の病気を患っており、自分の歯を異物だと思い込んで攻撃しているため、抜歯や歯茎を少し切る必要があると告げられました。
「治療後、迎えに行ったら、ものすごく威嚇され、次の日から距離を置かれました(笑)。でも、時間をかけ、またお腹を触らせてくれるまで仲良くなれた。ここまでで2年かかりました」
警戒心が強かった猫が甘えん坊に
ところが、その後、思わぬ出来事が。そろそろおうちに迎え入れようと思っていた矢先、もんたろすくんは突然、姿を見せなくなってしまいました。
飼い主さんは付近を捜索し、近所の人に聞き込みをするも見つけることができず、命を落としたのでは…と絶望。
しかし、半年後の朝6時。外のドアの前で猫の鳴き声が。そこには骨と皮だけになった、もんたろすくんの姿がありました。
飼い主さんは靴下のまま飛び出し、帰ってきた時のために用意していたフードをあげることに。そして、奇跡の帰還からしばらく経った頃、去勢手術を行いました。
「もんたろすはニャンたまも根こそぎ切られていて、小指の爪ほどのそれらしきものがついていました。去勢手術後、内容物を見せてもらったら7mmほどの脂肪の塊が入っていただけで、繁殖機能はなかったようです。また、左足の肉球が壊死していたので、一球切り取る手術も行いました。今は復活して、ぷにぷにの肉球です」
そして、冬が近づく前、ついにおうちの中へ。自宅には先住猫のめすねこすちゃんがいたため、飼い主さんと旦那さんは交代で、もんたろすくんがいる簡易サークルの中で過ごしました。
「遊んだり、ちゅ~るをあげたりしていましたが、もんたろすはいつも、めすねこすを熱い目で見つめ、ミャオミャオとアピールしていました。だから、めすねこすへのケアのほうが大変でしたね(笑)」
とはいえ、もんたろすくんも慣れない環境の中で警戒心を強めており、ペットハウスからなかなか出てこず、サークルを撤去した後は人がいない部屋やクローゼットにいることが多かったそう。
しかし、愛情を注ぎ続け、優しく接しているうちに変化が。ほとんどの時間を飼い主さんのそばで過ごし、どこへ行く時にも後追いする甘えん坊さんになりました。
「実はもんたろすにはレントゲンにしか写らない尻尾がある。チョンとついている、その小さな骨も愛しいです」
目に見える尻尾が無いためか、もんたろすくんはおうちに来た当初、下半身の毛づくろい時にバランスを崩し、転がってしまっていたそう。しかし、いつ覚えたのか、飼い主さんにお尻や手足を押し付け、バランスを取るようになっていきました。
「時には、爪を食い込ませてきます。それでも転がってしまった時は、私のせいでひどい目にあったような顔をする。まん丸おめめになる被害者意識満点のお顔が、たまらなくかわいいです」
もんたろすくんは旦那さんが写真を撮るとシャープに写るのに、飼い主さんが撮影すると、なぜかまん丸なお顔に。
なお、飼い主さん夫婦以外には人見知りをし、同居している旦那さんの両親には姿を見せず、ばったり遭遇した時は忍者のように逃げるのだとか。
「いつもは足音を立てまくっているのに(笑)。前に、義母とはちあったら一瞬固まり、一目散に逃げだしたそうです。『小さい時にあんなにもご飯をあげたのに、忘れちゃったのかしらね、もう』と笑っていました」
自力排尿が困難な危機的状況も乗り越えてくれた
そんなもんたろすくん、実は今年の4月に自力排尿が困難な状態になっていたそう。
「病院に行き、カテーテルで尿を抜いてもらいました。大学病院を勧められましたが、かかりつけ医ですらパニックを起こし、心臓が止まりかけたことがあったので難しくて…。しばらくは通院し、カテーテルでの排尿や圧迫排尿をすることになりました」
その後、膀胱を強制的に動かす薬も服用。しかし、自力で排尿はできず…。そこで、かかりつけ医にて精密検査をしてもらうと、腰骨のわずかな歪みが神経に当たっていることが原因である可能性が高いと判明。
投薬治療の効果が出ることを願いつつ、通院を続けたところ、6月のある日。久しぶりにトイレで排尿してくれ、以後、再び自力排尿ができるようになりました。
「薬は量を減らしつつ、一生飲むかもしれませんが、生きているだけでバンザイです」
何年かかってもいいから、うちの子にしよう。部屋でお茶を飲む時に、この子が隣にいてくれたら、どれほど幸せだろう…。
そう思っていた飼い主さんは、願いが実現した今の暮らしに幸せを感じています。
「この子を初めて見た時、なぜだか分かりませんが、私の子が帰ってきたと思った。何回も流産して子を諦めなくてはならない時だったからでしょうか。この子は私の子だから、私が育てるって思ったんです」
だからこそ、出会った頃の姿は今でも心に強く焼き付いています。
「獣医師から、尻尾はおそらくハサミで切られたのだろうと言われました。野生動物が生きるため、自分の命を守るためにしたのなら、なんとか気持ちをおさめることができます。でも、人が傷つけたとなれば話は違います」
鋭い牙と爪を持ち合わせているのに誰も傷つけない、暖かく柔らかい優しい生き物を狙う人が許せない。そう思っている飼い主さんは同じ目に遭う子が身近で現れないよう、野良猫の不妊去勢をし、野良猫にご飯をあげている近所の人に不妊手術を頼むなどして繁殖を防ぎつつ、どの猫でも誰かが見ている状況を作ることで虐待を防ごうと努力しています。
「もしかしたら、何も変わらないかもしれない。でも、虐待する人の人間性を変えることは難しくとも、虐待されない環境を作ることはできるかもしれないと思うんです」
身勝手な歪んだ欲求を小さな命にぶつける、動物虐待。その卑劣さが社会により知られ、動物たちの命が法でもしっかり守られる未来が築かれてほしいものです。
惨い仕打ちを受けながらも、再び人間を信じてくれたもんたろすくん。そんな彼のニャン生が、この先も穏やかなものでありますように。