きみと過ごした「2年9カ月2日」は愛で満ちていたよ アスペルギルスと闘った愛猫「王子くん」が伝えたこと

古川 諭香 古川 諭香

猫の日を間近に控えた2022年2月20日。多くの人に愛された、ひとつの命が天国へ旅立ちました。彼の名前は、王子くん。王子くんはアスペルギルス(真菌)や4種類の細菌による感染症、腎盂腎炎と闘い、生きようと頑張り続けました。

顔がパンパンに腫れた猫を保護したら「アスペルギルス」が発覚

動物保護活動をしていたSHIROCUROさんは2019年8月、紫野さん(現:保護団体ねんねこ保育園代表)の捕獲手伝い要請ツイートを見つけ、顔がパンパンに腫れている猫の保護を手伝うことに。

その猫こそ、王子くん。

動物病院では咬傷であると診断され、抗生物質を投与。効果が切れる2週間後に、今後の治療方針を決めることとなりました。

しかし、知人の強い勧めにより、2週間後、別病院でセカンドオピニオン。獣医師の判断でレントゲンを撮ったところ、鼻腔の骨が溶けていたことが判明。「アスペルギルス」の疑いがあると告げられました。

アスペルギルスは、自然界に広く存在しているカビ(真菌)の一種。免疫力の低下によって発症しやすくなると考えられています。

王子くんの場合は鼻腔内で嫌気性細菌、MRSAも確認されたため、抗真菌薬の投与や鼻腔の洗浄をすることに。風通しをよくし、清潔に保つため、鼻腔に大きな穴を開ける手術を行うこととなりました。

術後、SHIROCUROさんは自宅で毎日1〜2回、鼻腔内を生食で洗浄し、溜まる膿をピンセットで取るなど手厚いケア。

その日常はSNSで配信され、王子くんの全快を多くの人々が願うようになりました。

「威嚇されてもおかしくない辛いケアでしたが、王子は1度もせず、嫌な素振りをしながらも、ちゃんとさせてくれ、終わった後には何もなかったかのように甘えてきました。すこぶるお利口さんな王子だから、ケアができたんだと思います」

適切な治療や本ニャンの頑張りによって、アスペルギルスは完治。しかし、その後、再び、病が王子くんを襲いました。

膀胱炎や腎臓腎盂を乗り越えたものの天国へ…

2020年5月。王子くんは膀胱炎からの尿路結石によって尿路閉鎖を起こし、手術。翌月に退院するも病は再発し、尿路拡張手術を行いました。

手術後、SHIROCUROさんは数カ月間、鼻腔のケアと共に尿路口の洗浄も自宅で行い、患部を清潔に保つことを意識。

ようやく症状が落ち着き、安堵したのも束の間。2020年10月、左目の上が腫れ上がってしまい、切開手術をすることに。

その後、王子くんは通院や自宅ケアのみで良好な状態を保てていましたが、2022年1月に食欲や元気がなくなり、SHIROCUROさんは不安に駆られました。

「定期的に行っていた鎮静洗浄の予定日が近かったので、食欲不振は蓄膿のせいかもしれないと思い、最短日で鎮静洗浄を受けました。しかし、変化はなく…。再度、診察してもらい、抗生物質などを投与してもらいましたが、体調は変わらずで」

そこで、再び病院へ行き、血液検査をしてもらうと、腎数値が危険値に達していることが判明。即入院し、尿管とは別に「SUBシステム」という腎臓と膀胱を繋ぐ管を皮膚の下に設置するSUBシステム手術が行われました。

容体が落ち着いたのは、入院から5日目のこと。SHIROCUROさんは再会の日を待ちわびるようになりました。

しかし、2月20日。朝早く、病院から「早く来てほしい」との連絡が。理由も分からず駆けつけると、ぐったりと横たわる王子くんの姿が。

小さな血栓が全身にできる「DIC(播種性血管内凝固症候群) 」を発症し、治療の術がなくなってしまった。このままだと、病院で亡くなってしまうから連れて帰ってあげて――。主治医からそう言われ、SHIROCUROさんは王子くんと共に帰宅。

家に着いた後はすぐキャリーから出し、「おかえり。よくがんばったね。ありがとう」とハグ。「Twitterのみんなにも、ただいましよう」と伝え、写真を撮った5分後には王子くんは腕の中で旅立っていました。

「帰宅した時点で鼻も耳も真っ白で瞳孔も開いていましたが、生きていました。王子の目に映る最期の景色が私であるのならば笑顔を持っていって欲しかったから、旅立つまで泣かずに笑顔でいました。持ちきれないほどの愛と私の笑顔しか持たせられるものはありませんでした」

王子くんの死を「未来の命を救うこと」に繋げたい

悲しい死から半年が経った今も、SHIROCUROさんの頭と心の中には王子くんがいます。

生前の王子くんは、寂しがり屋。

「生後半年くらいまでシリンジで給餌していたから、ご飯を食べるのが下手で(笑)ドライフードを1粒ずつ噛み締めて食べる顔には『ぐぎぎ』という効果音がよく似合いました」

名前の通り、王子くんには王子様気質なところがあり、1度舐めたフードは絶対に食べず。お腹が空くと、顔をゴツンと当てて寝ているSHIROCUROさんを起こし、器にご飯を入れさせ、食べ終わるまで見ていているかチェックするのが日課だったそう。

「コミュニケーションが上手だったから余計に、猫を超えた息子みたいな存在で。彼の病院までは電車で片道1時間ほどでしたが、乗車されてる方に馬車(キャリーケース)が見えるように置くと、みんな王子をあやしていました」

また、馬車を持って歩いている時や電車を待っていると、声をかけられない日がないくらい、たくさんの方から「かわいい」「頑張って」「偉いぞ」と褒めたたえてもらったのだそう。

「王子との暮らしは、山あり谷あり。何度も2〜3日徹夜しましたし、晩年の半年ほどは2〜3時間しか眠れず、過酷でした。それでも、元気で生きてくれるなら何も辛くなかった。保護する時、誓ったんです。この子のためになんでもする、決して諦めないと。何ものにも代えがたい、キラキラした暖かい愛が詰まった日々でした」

そんな王子くんとの思い出を未来の命に繋げたいと考え、SHIROCUROさんは今後もペットの適正飼養や多頭飼育崩壊防止策、不妊化の必要性周知や殺処分の在り方など人とどうぶつが健やかに共生できる環境やシステムを行政や関係機関と協議・交渉しながら作り上げていくためにNPO法人を立ち上げる予定。

「王子がああなったのは免疫力が低かったことだけでなく、野良猫であったことも関係している。アスペルギルスという真菌はどこにでもいますが、もし王子が飼い猫であれば、早期治療ができたはずです」

王子くんのように生まれた環境が災いして短命となる猫を減らすためにも、外で暮らす犬猫や悲惨な状況で保護される動物がいなくなり、将来的に保護活動が必要なくなる社会を目指し、根本から現状を変えていきたいと考えています。

「自分ひとりが設立した会社」ではなく、多くの人に動物の命を考えるきっかけにしてもらい、「みんなの思いで設立した会社」にしたいという思いから、クラウドファンディングを活用した法人化を決意。

「私は保護活動者の中では、現場と啓発の間くらいの立ち位置。現場目線を知っての啓発だからこそ、できることがあると思う。自分ひとりだけでなく、他の活動者さんにとっても助けとなれるよう、努めていきたいです」

そう語るSHIROCUROさんは2年9カ月2日の間、自分たちに寄り添い続けてくれた方々に感謝の言葉を寄せます。

「結果的に王子を救うことはできませんでしたが、知恵も経験もお金もない、ただ王子を助けたいだけの私と、生きることに貪欲な王子に手を差し伸べてくださったおかげで、王子はたくさんの愛に触れ、走り回り、猫たちと遊び、日向ぼっこを満喫できました。感謝の気持ちでいっぱいです」

一生忘れることがない、愛猫との日々や王子くんの生きた証を大切にしながら、SHIROCUROさんは他の小さな命を救うため、奮闘していきます。

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