NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、源頼朝の弟・阿野全成役をつとめた俳優の新納慎也。祈祷をめぐるコミカルな演技と、最期を迎えた場面の対比が話題を呼んだ。
この俳優の名字の読み方は難しい。「新納」という名字の読み方を「にいの」だと思っている人も多いのではないだろうか。正しくは「新納」と書いて「にいろ」と読む難読名字である。ただし、名字ランキングでは5000位以内のため珍しい名字ではない。
この「新納」は本来鹿児島県の名字である。新納慎也は神戸出身とのことだが、もともとは鹿児島県の出である可能性が高い。ただし、名字としてのルーツの地は宮崎県にある。
現在、「新納」の地名は消滅しているが、古くは日向国に新納院(現在の宮崎県児湯郡高鍋町付近)という地名があった。この「院」というのは本来は税を納める正倉のことだが、九州南部には「郡」とほぼ同格の「院」という行政単位があった。
中世、現在の鹿児島県から宮崎県にかけて島津荘という広大な荘園があった。この島津荘を支配したのが島津氏で、その一族である時久が荘内の新納院の地頭となって新納氏と名乗ったのが祖。以後、新納氏は島津氏家臣として薩摩で一族が広がった。
室町時代には日向の戦国大名伊東氏に仕えた一族と、薩摩の島津氏に仕えた一族にわかれ、薩摩の新納氏は島津氏の重臣となり、江戸時代は薩摩藩士となった。
鹿児島県では新納一族は名家で、「新納」を「にいろ」と読むのも認知されているが、難読であることには間違いない。こうした地域独特の難読名字の場合、地元以外では漢字本来の読み方に変えてしまうことも多い。
たとえば、栃木県茂木(もてぎ)をルーツとする「茂木」は栃木県や埼玉県では「もてぎ」だが、関東以外では漢字の読み方に従って「もぎ」と読むことが増える。また、和歌山県をルーツとする「玉置」も、県内や奈良県ではほとんどが「たまき」だが、関西以外では「たまおき」に変化したものが多い。
「新納」の場合はかなり難読のためか、鹿児島県内でも約4分の1は「にいの」と読み、他県では「にいの」の方が多い。全国を合計すると「にいろ」と「にいの」はほぼ半分ずつとなっている他、「しんのう」と読むこともある。