女子中学生の母娘殺人未遂事件、少女は本当に「死刑になりたかった」と語ったのか?夜回り先生が問題提起

夜回り先生・水谷修/少数異見

水谷 修 水谷 修

 東京都渋谷区の路上で8月20日に母娘が包丁で切り付けられた事件で、警視庁は21日、殺人未遂容疑で現行犯逮捕した中学3年の少女が「死刑になりたいと思い、見つけた2人を刺した」などと供述していることを明らかにした。「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏は「家庭裁判所の審理内容については原則非公開」という観点から、警察や報道側の在り方について問題提起し、さらに少女の背景について見解をつづった。

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 東京・渋谷区の神泉駅近くの路上で、10代の少女が50代の女性とその10代の娘を刃物で刺し、10代の少女が殺人未遂で逮捕されるという事件が起きました。刺された親子は、命に別状はないようですが、深い傷を負わされています。

 この事件に関して、さまざまな報道が為(な)されています。この事件を起こした少女は、15歳の中学生だとのことです。この事件に関する報道について、私は大きな問題を感じています。ある報道では、この少女は、身柄を確保された後「死刑になりたかった」と話したそうです。また、「母と弟を殺したかった」とも話したと報道されています。これは、真実なのでしょうか。もし、これが本当に加害者の少女が語ったのであれば、少女本人が逮捕され、マスコミに語る機会などないわけですから、それを誰が、報道関係者に漏らしたのでしょうか。これは、公務員、特に厳正さを問われる警察関係者による守秘義務違反ではないのでしょうか。また、もし、そのような警察関係者による守秘義務違反がなかったとしたら、報道したマスコミ関係者によるねつ造報道なのでしょうか。

 いつも様々(さまざま)な事件が起きるたびに感じることがあります。マスコミにとっては特ダネなのでしょうが、捜査機関から情報が流れ出て、それがさも事実のように報道されます。また、それを知った人たちは、それを事実として受け入れ、先入観を作ってしまう。これは、いいことなのでしょうか。ましてや、今回の事件は、15歳の少女が起こした事件のようです。その背景には、深い闇があるでしょうし、また、逮捕されてすぐのこの少女が、きちんと事実関係を理解し話すことができるとは思えません。

 少年事件については、少年法によって、その未熟さや将来への可塑性の観点から、完全に人権が保障されているはずです。多くのマスコミは、その観点から、この事件に関する報道について細心の注意を払っています。当たり前のことですが。それを破った、一部のマスコミに関係者は、その責任を深く感じるべきですし、マスコミにもし情報を流した捜査関係者がいるのならば、警視庁、そして渋谷警察署は、それを調査し、厳正に処分すべきです。

 事件を起こした少女の心の闇については、いずれ家庭裁判所の調査官や審判によって明らかになります。当然、公開されることはないでしょうが。そして、この少女は、犯した罪について、自らの身をもって学び、償うことになります。

 今の段階で、いい加減な情報を垂れ流し、それをただ報道する。こんな人たちを私は許すことができません。原因もなく犯罪を犯す子どもはいません。ただし、その原因を、単なるいい加減な情報として多くの人に報道する人たちは、第二の犯罪者です。

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