島根県松江市内のショッピングセンターのフードコートの一角に突如「図書館」が現れた。飲食厳禁の印象が強い図書館がなぜ飲食コーナーに開店しているのか調べた。
牛丼屋の隣に図書館
図書館があるのはイオン松江ショッピングセンター(松江市東朝日町)3階のフードコート内。ハンバーガーやうどんといった店の看板が立ち並ぶ中、牛丼の「すき屋」の隣に「松江市立図書館イオン松江サービスステーション」と書かれた看板が掲げられている。
看板は白地に黒文字で書かれたシンプルなもの。コーナー内部も白を基調に「予約本の貸出できます」「窓口で予約受付中」といった必要最低限の貼り紙以外はない。飲食店の派手な看板が並ぶ中では、異彩を放っている。
工事による休館に伴い開設
松江市立中央図書館(松江市西津田6丁目)の小林久美子館長は「今まで図書館を利用する機会がなかった人が、図書館に親しむきっかけにしたかった」と開設の狙いを話した。
松江市内に3館ある市立図書館は、蔵書数計34万7千冊を誇る。中央図書館は現在、図書館が入る松江市総合文化センターの改修工事により、4月から休館中。貸し出し機能の継続のため、イオン松江と市民活動センター(松江市白潟本町)の2カ所に6月、サービスステーションを開設した。
サービスステーションではホームページや電話、窓口で貸し出し予約した本を受け取ることができる。予約に応じて倉庫や他の市立図書館にある本を運搬するため、どの図書館にある本でも受け取れる。市民活動センターのサービスステーションには実際に手に取れるよう、児童向けの本約1万冊が常備されている。
イオン松江に開設できたのはテナントに元々入っていた店が、図書館休館のタイミングでたまたま空いたからだという。小林館長は「奇をてらったわけではない。物件を探していた時に偶然見つけ、老若男女多くの人が通る所だったのでぴったりだと思った」と振り返った。
フードコートは映画コーナーの目の前でもあり、学生から家族連れまで多くの人が通る。通りがかる客の中には「図書館を利用したことがないので、貸し出しカードを作りたいです」と申し出る人もおり、新規利用者の開拓につながっているという。常連からも「買い物のついでに利用できて便利」と好評で、7月にイオン松江のサービスステーションで本を借りた人数は1600人、カードの作成や問い合わせを含め訪れた人数は2500人に上るという。
ホームページや電話で予約、本は受け取りに行くだけ
せっかくなので、島根県安来市在住で松江市立図書館を一度も利用したことがない記者(32)がサービスステーションの使い方を教わった。
サービスステーションを利用するには本の貸し出しの際に使う利用者カードが必要。身分証明書を持ち、サービスステーションの窓口か、市立島根図書館、東出雲図書館に行けば作ってもらえる。記者が免許証を見せて登録用紙に名前や住所を記入すると、3分ほどでカードができた。松江市立図書館では市外や県外の人でもカードを作れて利用できる。
カードがあれば、市立図書館のホームページか電話、窓口で予約できる。ホームページで借りたい本のタイトルを検索して、当該の本を予約カートに入れて「予約する」ボタンを押し、受取館と連絡方法(メール、電話)を選択する。電話の場合は名前と7桁のカード番号を伝え、借りたい本のタイトルを言えば予約できる。
図書館が予約の通知を受けて本を運搬し、準備ができ次第、連絡が来る。早ければ予約の翌営業日には借りられるという。手続きを全てネットで終えられ、本を受け取るだけで済むのはかなり便利だ。
図書館やサービスステーションではジャンルや対象年齢別に司書がお薦めの5冊を選んで1セットにした「貸し出しセット」も置かれている。ホラーやSFといったジャンル別に40セット、0歳や1、2歳といった年齢別に50セットがあり、予約なしでも借りられる。記者は怖い話が好きなので、ホラーセット5冊を借りてみた。盆休みを活用して読破しようと思う。
フードコート内にある一風変わった図書館は、市民の利便性に着目して開設した拠点だった。小林館長は「買い物や飲食のついでに気軽に立ち寄ってもらい、利用者カードだけでも作ってみてほしい」と利用を呼びかけた。
イオン松江サービスステーションの営業時間は午前10時~午後7時で、市民活動センターサービスステーションは午前10時~午後6時。休館日はともに毎週水曜と毎月最終金曜。一度に予約できるのは10冊までで、貸し出し期間は2週間。貸し出し料金は無料。