福岡県北九州市内で13日夜に母親(37)と高校生の娘(15)が刺され重傷を負った殺人未遂事件の発生直後、現場近くの駅付近で東京都在住の少年(17)が列車事故で死亡したことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は16日、当サイトの取材に対し、「位置情報共有アプリ」などを利用した「バーチャル犯罪」の怖さを指摘した。
事件は13日午後9時50分ごろ、北九州市小倉北区の住宅で発生。住民の通報を受けて駆け付けた警察官に、負傷した母親は「帰宅したら若い男が出てきて刺された。男は逃げた」と話した。娘は腹を刺されたという。事件から約20分後、最寄りのJR南小倉駅付近で列車にはねられた男性が死亡し、その身元について、福岡県警小倉北署は「東京都葛飾区の職業不詳の少年」と発表した。列車事故の現場付近には自転車が残され、少年が使用した可能性があるとみられている。
捜査関係者によると、少年は娘の知人で、家族から7日に行方不明届けが出されていた。住宅内で見つかった血痕から少年のDNA型を検出したことも分かった。県警は殺人未遂事件と事故の関連を調べている。娘は少年と直接の面識はないがSNSで知り合ったと話しており、通報した知人によると、娘と少年はGPS機能付きのアプリなどで情報共有していたが、娘が連絡を断つと、少年が東京から北九州の家まで来たのではないかという。
小川氏は「GPS機能を共有するくらいですから、写真のやりとりくらいはあったのかと思います。警察は既にこの女子高生と少年の関係を把握していたということなので、女性側から警察に相談があった可能性も考えられます。亡くなった男性は行方不明届が出ていた少年との指紋照合できているので(同一人物で)間違いないでしょう」と説明した。その上で、同氏は「位置情報を教え合っていたという話を聞いて、ストーカー的な心情がエスカレートしてこういう事件を招いたという印象。SNSで相手から過度の反応を感じて女子高生が連絡を断ったことで、(加害者側の)行動がエスカレートした、バーチャルな世界でのストーカー行為(犯罪)だと言えます。」と指摘した。
小川氏は「相手が北九州から遠く離れた場所に住んでいるので、被害者の女性も安心して(GPS機能付きのアプリ)を教えたのではないか。その少年とのやり取りの中で『怖いからGPSを切った』とのことですから、危険を感じたのだと思います。しかし、この少年はGPS機能を切られたことから、これまでのやり取り(GPSの共有)から自宅の所在地が分かっていたので、東京から追いかけてきたのでしょう」と補足した。
少年が家の中から出てきたことについて、同氏は「家に侵入して待っていた、いわゆる『入り待ち』の状態。凶器を準備し、強い殺害の目的があったと言えます。SNSだけであっても、本人は交際しているつもりになり、位置情報をGPS機能で共有していたのが一方的に切られ、自暴自棄になった可能性が強い。ストーカー行為と同様」と推測した。
今回の事件で浮上したGPS機能付きアプリなどを利用したバーチャルな世界での犯罪を防ぐにはどうすればよいのだろうか。
小川氏は「ストーカーになる相手に対し、無料通信アプリやSNSをブロックしたり、電話を着信拒否すると、同時に相手側のスイッチが入るケースが多い。必ず、そうする前に警察に相談してアドバイスを受けて欲しい。以前と違って、今は警察に『人身安全』といって、ストーカー対策などをする専門チームが必ずありますから。『まだ無料通信アプリがつながっている、ブロックされていない、電話がつながる状態』…といった、連絡が取り合える状態にしておけば、相手が少しは安心するので、その間に、時間稼ぎをしておいて、警察に対応してもらうが一番いいと思います」と呼びかけた。
ネット・リテラシーが求められる時代。同氏は「小学生の頃から、SNSの怖さもそうですけど、スマートフォン等の使い方を考える必要がある。GPS機能付きアプリを共有していると、自宅の住所を教えなくても、相手は分かるわけです。自宅は一番長くいるところですから。そこから事件に発展してしまう。相手のスイッチが入ればこういうことが起きるということを知って欲しい」と訴えた。