日本一の巨樹はどこにあるか、ご存じでしょうか?鹿児島県姶良(あいら)市の「蒲生(かもう)八幡神社」に鎮座する大クスがそれで、何と樹高30メートル、根回り33.5メートル、目通り幹囲み24.22メートルというスケール。推定樹齢は1500年でフランク王国と同い年だ。昭和63年度に国が調査し、日本一に認定されている。その神秘的な”風貌”からパワースポットとしても人気だとか。実際に訪ねてみた。
まさに威風堂々という表現がピッタリだ。日本一の巨樹は、蒲生八幡神社の境内にどっしりと根を張り、神々しいまでの風格をたたえていた。
「地元の人は親しみを込めて、おおくすどん(大楠殿)と呼んでいます。まるでトトロの家のようでしょう。毎年11月第3日曜日には秋まつりが開催され、太鼓が演奏されるんですよ」
案内してくれたのは姶良市の担当者。その勇壮な姿は、みなぎんばかりの生命力を感じさせ、最近ではヒーリングスポット、パワースポットとして人気だそうで、市ではおおくすどんのCMを製作するなど、PRに余念がない。
その蒲生の大クスはいまから100年前の1922(大正11)年3月8日に国天然記念物に。1952(昭和27)年3月29日には国特別天然記念物に指定された。正真正銘の日本一に認定されたのは1988(昭和63)年。現環境省が幹回りが3メートル以上ある全国の樹木を対象に巨樹・巨木調査を実施し、その結果、全国で5万5798本もの巨樹の中から選ばれた。
枝は四方に勢いよく張り、まるで怪鳥が空から降り立ちたったようだとも言われる大クス。樹高30メートル、根回り33.5メートル、目通り幹囲み(地上1.3mの幹の外周)は24.22メートルあるが、担当者によれば、以前に蒲生八幡神社境内に盛土をしたため、樹の根元は2メートル近く埋もれているとのことで、実際の根回りはもっと大きいものと推測される。
「こちらに回って、これを見てください。ユニークでしょう」
担当者が案内する側に回り込んでみると、そこには扉があった。生きている木に扉?聞けば幹の中は空洞になっていて、8畳ほどの広さがあるそうで、おおくすどんはどこまでもミステリアスだった。
あらためて言うが、推定樹齢は何と1500年。1123(保安4)年に、ここ蒲生の地に移ってきた初代領主・蒲生舜清が八幡神社を建立したときには、すでに神木とされていたことが伝えられている。西洋に目を移せば、年表はフランク王国と同じころ。いかに悠久の時を刻んできたかが分かる。
市の担当者の解説を聞きながらの参拝。実はちょっとしたハプニングがあった。「どれほどの大きさなのか」と想像しながら歩いていると、左手にそれらしき大クスが見えてきた。おおっ、これが日本一の巨樹か?いや、待てよ。大きいけれど、普通っぽくないか。チラッと担当者の顔をのぞくと、やはり、いたずらっ子のような表情を浮かべているではないか。
「そうなんです。これは違います。ツーリングの方やせっかちな観光客の方は”これが日本一の巨樹か”と思って、帰られることもあるんです。ちょっと残念です」
そこで、市では紛らわしさや失敗談を解消するため、わざわざ「日本一の大楠(日本一の巨樹)は境内の奥左側にあります」という看板を設置している。
もっとも、日本一の巨樹は早くから注目され、1913(大正2)年には「大日本老樹番附」なるもので堂々と「東の正横綱」に位置づけられ「「蒲生ノ大樟、七丈三尺八寸、十五間、八百年、鹿児島縣姶良郡蒲生村八幡宮」と書かれてる。
さらに、今回の訪問で興味深かったのは巨樹と巨木の違い。一般に幹周りが3メートル以上に達したものを巨木、5メートルを超えるものを巨樹と呼ぶそうだ。さらに巨樹の2位以下から10位までもクスが占め、九州に集中しているそう。
ちなみに福山雅治さんが歌った長崎「山王神社の大クス」は2本からなり、向かって右側の幹囲み8.2メートル、左側は6メートルだそうで大きさは中堅どころだろうか。ただし、原爆投下の際には黒焦げになりながら、それを乗り越えたクスノキの生命力には恐れ入るばかり。機会があれば、九州クスノキツアーを敢行したいものだ。