子どもが受験生、夫は単身赴任 喉の詰まりを訴えた更年期の女性は漢方薬で笑顔を取り戻した

ドクター備忘録

川口 惠子 川口 惠子

卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンは、40代半ばから低下し始め閉経を迎える50代前半にはとても低下してしまいます。更年期の不快な症状の多くはエストロゲンの低下によるものですが、閉経前後の方が、すべてひどい症状に悩まされるわけではありません。

中には「何歳くらいで閉経しましたか?」と質問すると「さあ何歳の時やったかなあ。気がついたら上がっとりましたわ」と、更年期障害など全く無縁の患者さんもおられます。反対に何年間も寝たり起きたり病人のように暮らしておられる方もいます。エストロゲンの低下は中高年の女性全員に起こるのになぜこのような差がでるのでしょうか?

更年期障害を起きるのは三大要因がかかわっていると言われています。第一はエストロゲンの低下、第二は元々の性格や気質です。几帳面な方、神経質な方、マイナス思考の方などは、楽天的で物事にこだわらない方に比べると更年期障害になりやすいと言われております。

そして第三の要素は家庭や職場でのストレスです。閉経の頃、多くの人は様々なストレスを抱えています。家庭では夫婦の間がうまくいかないこともあるでしょう。単身赴任だった夫が戻ってきて、子供が一人増えたように家事が大変になる人もいます。夫が定年になり経済的な問題があるかもしれません。子供が登校拒否になったり受験に失敗するかもしれません。子供が進学や就職で自立してとても寂しくなる人もいるでしょう。夫や自分の親の介護で大変な方もおられます。

一方、職場では中間管理職になって上から下からいろいろ言われて神経がすり減ります。職場が変わって新しい仲間(ほとんどが自分より若い)になじめない人、職場のノルマに苦しんでいる人、自営業の方ならばコロナ禍の中で経営が大変です。といった具合にもうストレスだらけです。おまけに若いころに比べると体力は格段に落ち、疲れも取れず、老眼が進んで目が疲れ、肩が痛くて腕が上がらず、夜は急に体が熱くなり、汗がでたり、動悸がしたり安眠できず、疲労はますます…と、様々な要素が重なったのが更年期障害なのです。

48歳のSさんは主婦として2人の子供を育てています。最近月経不順になり、時々ホットフラッシュを感じるようになりました。肩こり・頭痛が頻回にあり、そして何より困るのは気分が沈んでやる気がなく、急にイライラして子供にきつい態度をとってしまうことでした。

「何かストレスがありますか?」と質問すると「ストレスの原因は分かっています。子供の受験です。主人は単身赴任中ですから私が全部子供の面倒を見なくてはいけないんです」とSさんは暗い表情で答えました。夫に相談できずに受験期の子供さんの面倒をみるストレスは容易に想像できました。「喉がつまった感じがしませんか?」と尋ねると「します。時々喉が苦しくなります」とSさん。

喉が詰まる感じがするのはストレスが溜まっているサインです。私は彼女に更年期障害に最も多く使用される漢方薬である「加味逍遥散」とストレスで気分の沈んだ方の漢方薬「半夏厚朴湯」を処方しました。効果は2週間ほどで現れて「気持ちが楽になりました。頭痛も減っているようです」と言われ更に同じ漢方薬を続けました。1カ月後には「このまま漢方を続けてなんとかやり過ごせそうです。来年の春までの辛抱ですものね」と彼女はほほ笑みました。

更年期障害にはホルモン剤やSさんのように漢方薬が使用されることが多いのですが、いずれにせよ更年期はずっと続くわけではありません。閉経前5年から閉経後5年くらいの長くて10年間です。その期間をそれぞれの方に合った方法でやりすごすのが一番です。もちろんそれは医療には限りません。スポーツや趣味で心身の不調を改善できればいいと思います。日常生活の改善でうまくいかなければかかりつけの先生や産婦人科に相談してください。

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース