人生100年老後は2000万円必要論に喝! 「余計なことである」とバッサリ 脳梗塞を経て新境地に至った作家の無敵の老後論

松田 義人 松田 義人

少子高齢化が進み、人生100年時代が叫ばれ、しかも「老後には2千万円が必要」とまで言われています。シニアに突入しようとする世代にとっては、不安だらけですが、そんな中で「老後の不安」を一蹴してくれるような一冊が登場しました。『無敵の老後』(勢古浩爾・著、大和書房)という本です。

著者の勢古さんは現在75歳。『定年バカ』『定年後のリアル』などのベストセラー作家として知られていますが、以前脳梗塞を患ったそうです。その経験から「生きてるだけで愉しけりゃ、無敵」という新境地を開いたと言います。

スカッと笑えてじんわりしみる勢古さんの新・老後論が存分に詰まった本書の中身を見てみましょう。

無敵とは敵を「無くする」こと

本書は6章で構成されたエッセイですが、その章タイトルだけを見ても「無敵」が連発です。

第1章:八十歳まで生きりゃ、とりあえず無敵だ
第2章:生きてるだけで愉しけりゃ、無敵だ
第3章:世間なんか捨ててしまえば、無敵だ
第4章:歳をとっても腹は立つ
第5章:老後で「やめた」老後で「見つけた」
第6章:敵を無くしてしまえば、無敵だ

ただし、単に勢いだけで「無敵」を連発しているわけではなく、勢古さんは「無敵の定義」についても言及しています。

この無敵は、どんな敵にも打ち克つという無敵なのではない。敵がひとつもなくなるという意味の無敵だ。
うれしいことの条件はただひとつ。なにも難しいことではない。脚下照顧(きゃっかしょうこ)。
生きているだけでいいのである。敵はどこにもいない。
潤沢なお金も結婚相手も豪華な家も車も必要ではない。
とりあえず、ただ生きていればいいのである。
世間からの、なにが楽しくて生きているんだ、という羨望を隠した揶揄も敵ではない。
だって、生きていることじたいが愉しいんだから。(本書より)

楽しい老後、明るい老後、って

「無敵の定義」はカッコ良く感じますが、一方で「いやいや、現実には…」「そうはいっても」と思う人もいそうです。そういう人に対して、勢古さんは独自の考え方で「老後の楽しさ(愉しさ)」についてこう綴っています。

楽しい老後、明るい老後、ってなんのことだ。そんなことだれがいいだしたのだ?
好きなことができればそれでいい。しかし楽しいことができるか否かは、体の状態とお金の余裕と時間的余裕のほかに、もうひとつ条件がある。 やる気、である。
ああ楽しそうだ、やってみたいな、というやる気(その気) である。
わたしにはその気がないのである。
やはりわたしは楽しさを求めていない。(本書より)

これは、勢古さんが「生きてるだけで愉しい」と本気で思っているからこその、まぎれもない本心のようにも感じました。

わたしのおまけに愉しみがあればいい

また、少し前に話題になった「老後2000万円必要」問題についても勢古さんはバッサリ斬っています。

老後の問題というと、老後資金はいくらあったら安心か、という話になりがちである。数年前、金融庁が、老後には公的年金以外に、あと2000万円(だったか)必要だと発表して、年寄り連中が「話が違うじゃないか」と騒いだということがあった。余計なことである。<中略>車はどうしても必要なら乗ればいい。楽しみのためだけなら、免許は返納したほうがいい。ほんとうに食べたければ、一時間でも二時間でも並べばいい。みんなが並んでいるから、という理由ならやめたほうがいい。わたしはやらない。わたしには、わたしのおまけに愉しみがあればいい。(本書より)

切れ味鋭い笑いと冷静な批評眼が同居

勢古さんならではの軽妙でありながらも鋭い筆致が堪能できるエッセイが満載です。ときに「そんな考え方あるの?」と驚き、ときに吹き出しつつも「ただ生きる」ことの意味と有り難みを痛感しました。この一冊を読み、筆者はすっかり勢古さんのファンになりましたが、聞けば本書の担当編集者ももともと勢古さんのファンで執筆を依頼したと言います。

「途中で章全体を書き直すなど、勢古さんは納得がいくまで推敲(すいこう)を重ねました。最後は、勢古さんご自身、自信のある内容になったとお話しされており、切れ味鋭い笑いと冷静な批評眼が同居した、力のこもった一冊になったと感じています」(担当編集者)

本書の読みどころと、まだ手にとっていない方へのメッセージをコメントしました。

「日頃生きていると『こう生きるべき』『これをしなきゃ損』といった世間の声に惑わされがちですが、勢古さんはそうした同調圧力から距離を置き、世間という『敵』を無くすることを説きます。一気読みできる軽快な筆致ながら、自分を見失いがちな私たちにとって、『私の人生』を生きるための確かな友人となってくれるような一冊です」(担当者)

本書は50代以上の老後に不安を抱く人、そしてシニア世代に向けて綴られた一冊だと思いますが、「特別でなければいけない」「楽しくなければいけない」といった脅迫観念に少し疲れている人なら別の世代でもきっと面白く読めることでしょう。ぜひ一度手にとってみてください。

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