参院選、全国ではやりの「ゼロ票確認ガチ勢」に記者が挑戦! ライバル警戒し午前5時半に到着、結果は…

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 選挙の際、投票所に一番早く着いた有権者は投票箱の中身を確認する「ゼロ票確認」と呼ばれる役割をする。近年、会員制交流サイト(SNS)で「特別感がある」として流行っているようだ。どんな気分になれるのか、参院選投票日の10日、投票所の一番乗りに挑戦した。

 公職選挙法施行令の第34条で、最初に投票所に来た有権者に投票箱の中身を確認してもらってから箱を施錠することが定められている。何者かが事前に箱の中に票を仕込むといった不正を防ぐための重要な行為だ。これを狙って投票所開設前から並び、一番乗りする人たちをSNSでは「ゼロ票確認ガチ勢(ガチンコ勢)」と呼ぶらしい。

 記者は島根県安来市に住民票を持つため、投票所は安来市役所。訪れる時間の大体の目安を知るため市選挙管理委員会に聞くと、6月23日に始まった期日前投票(午前8時半開場)では午前7時40分ごろには人が並んでいたという。開場の50分前だ。

 投票日の開設時間は午前7時。以前取材した、島根県松江市北堀町の城北公民館の投票所に60年間一番乗りを続ける古浦恵悦さん(80)によると、公民館では午前6時半から人が来始めるとのことだった。二つの情報から推測すると一番乗りは30分~1時間前には来そう。

 もし近所にガチ勢がいたら…と思い、万全を期して開場1時間半前の午前5時半に到着することを決め、9日は午後10時に床についた。

時間通り到着、人影は

 寝過ごす夢を何度も見て寝汗をかきつつも、午前5時前に起床した。幸いにも自宅から投票所までは近いため、最低限の身だしなみを整えて自宅を出た。早朝のすがすがしい空気に浸ろうかと思った矢先、散歩をする年配の人やランニングをする壮年の男性を複数見かけた。人によってはもう活動時間帯なのだと思い、早足になった。

 記者が市役所に着いたのは午前5時半。人の姿は見えず、胸をなで下ろした。ガチ勢がいたとしてもさすがに1時間半前から並ぶ人はいなかった。入り口横の柱の陰に腰を下ろし、半年前に買ったものの全く手をつけていなかった本を読みながら開場を待った。

 午前6時になり、目の前の国道9号を通る車の量は増えたが、まだ後ろに人が並ぶ気配はない。これなら「最初から6時に来ればよかった」と悔やんだ。6時25分になると市役所内に明かりがともり、職員が投票所開設の準備を始めたのがガラス戸越しに見える。目が合った職員に二度見されつつ、開場を待った。

 結局、記者の後ろに人が来たのは開場寸前の午前7時直前で、高齢の夫婦とみられる2人組だった。2人は「来るのが30秒早かったな」と談笑していたが、その一つ前の人(記者)が午前5時半から独りで開場を待っていたとは思わなかっただろう。

箱の中を見ると…

 午前7時、市役所の正面扉が開き、いよいよ入場。受付に投票所入場券を渡し、投票券を受け取るまではいつもと同じだが、ここで選挙立会人の1人に「一番最初にいた人、ちょっと来てください」と呼び止められた。

 来たか、と平静を装いつつ呼ばれた場所に行くと、小選挙区選挙用の投票箱があった。アルミ製で鍵はかかっていない。立会人が四角い箱の正面をパカッと開け「中を見てみてください。何も入っていませんか?」と問いかけた。

 パッと見、ごく普通の空の箱に見えた。「大丈夫です」と即答しかけたが、唯一箱の中身を確認できる記者が不正を見落とせば、この箱に投票する有権者の民主主義を脅かしかねない。すぐに思い直し、いま一度箱の隅々まで目視した上で「はい。何もありません」と力強く答えると、立会人が箱を閉じ、職員が施錠した。比例代表選挙用の箱も同様の流れで確認した。

 あとは通常通り、投票をして帰るだけ。空の投票箱に入れた一票はストン、といつもよりも少し大きな音を投票所に響かせた気がした。空箱に投票するのはすがすがしく、また自身の投じる一票がより重く感じられた。

「特典」はゼロ票確認以外にも

 この投票所での一番乗りが体験できる特典がもう一つあった。投票する様子の撮影だ。

 職員から「記録用に、投票する瞬間の手元部分だけを写させてほしい」と言われ、少し制止しながら撮影に応じた。普段は写真を撮る側だが、撮られる側になるのも気分は悪くなかった。安来市選挙管理委員会によると、撮影は最も人が多く訪れる市役所のみで毎回行っているという。

 一番乗りが投票所で体験できることはゼロ票確認以外にも自治体によってさまざまで、千葉市では全158カ所の投票所ごとに、ゼロ票確認した有権者全員に感謝状を贈る(期日前投票はなし)というから驚きだ。物で釣るという訳ではないが、投票所に何かしらこういった楽しみが増えれば、これまで選挙に無関心だった層に少しでも訴えかけられるかもしれない。

 記者の地元では「ガチ勢」らしき人と出会うことはできなかったが、いつも選挙に行っている身でも普段と違うワクワク感があった。SNSの「#ゼロ票確認ガチ勢」で調べると、全国各地で一番乗りのために情熱を燃やす「仲間」の思いが見られた。

 もちろん「一番乗り」を競うことがすべてではないが、選挙の話題が注目されれば、政治に関心が低いと言われがちな若者の投票行動にもプラスの影響が起きるかもしれない。ちなみに、投票所での撮影を禁止している自治体もあるので、事前に選挙管理委員会に確認しておくとよい。

 何よりも朝早く起きて、まず投票に行くというのは、気持ちがいいものだと実感した。

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