中国・ロシアとの関係が冷え込む中「両国指導者と話せる政治家を失った」 安倍元首相の銃撃死、安全保障への影響は

治安 太郎 治安 太郎

近年の日本の平和や繁栄を築いてきたリーダーがなくなった。日本は大きな財産を失ってしまった。安倍元首相は、本来長野県での応援演説を予定していたが急遽予定を変更し、7月8日朝飛行機で奈良へ向かった。しかし、奈良で演説を開始してから1分が経過した直後、近くいた男が突然背後から安倍元首相に向かって銃撃し、残念ながら帰らぬ人となってしまった。この事件では明らかになっていないことも現時点で多いが、国際問題をウォッチングする筆者としていくつかのポイントを紹介したい。

まず、この事件はテロなのかどうかだ。今日、世界ではテロ、テロリズムという言葉に厳格に決まった定義は存在しない。専門家の数だけテロの定義があるとも言われる。だが、厳格に決まった定義はないにしても、広く共有されている考えがあり、それは、1つの暴力行為に政治性があるかどうかだ。

海外ではアルカイダなどイスラム過激派やその支持者によるテロが欧米を中心に発生してきたが、アルカイダなどは権威主義的なアラブ諸国の政府を打倒し、イスラム法による政教一致的な国家を作るという政治的なビジョンがある。また、近年、欧米社会で頻発する白人至上主義テロでも、そこには白人優位の社会を取り戻す、移民難民など非白人を排斥するなどといった政治的なビジョンがある。

今回の事件で、実行犯の40代の男は、「母親が関係する宗教団体にのめり込んでいき、同団体と金銭トラブルになって我が家が破産した、安倍氏が団体を国内で広めたと思い込んで恨むようになり、殺害しようと決断した」と動機を明らかにした。しかし、それは一方的な個人的な動機であり、学術的にはテロには該当しない。

しかし、厳格な定義が存在しないように、暴力行為の無差別性、被害規模、社会的影響力なども、テロかどうかを判断する上で影響を与える場合も少なくない。今回の事件は、日本元首相、しかも選挙中での事件ということもあり、行為としては政治性を帯びやすい。メディアや政治家からはテロという言葉が何回も聞かれる。テロと決定づける機関、人は存在せず、研究者、政治家、メディア、政府・治安当局がどう判断するかも大きく影響する。いずれにせよ、今回の事件がテロかどうか、これについてはさらなる検証が必要と言えよう。

一方、安倍元首相を失ったことは日本の安全保障においても大きな損失だ。岸田政権が中国やロシアへの対抗姿勢を強める中、9年近く首相の座にいた安倍元首相は習氏やプーチン大統領とも建設的な関係を維持、発展させるため独自に関係を築いてきた。

今回の事件後も、習氏やプーチン大統領は既に哀悼の電報を送っている。プーチン大統領は、「犯罪者によって日露の善隣関係の発展に貢献した傑出した政治家の命が奪われた」と死を惜しんだ。習氏も、「日中関係改善の努力を進め有益な貢献をした」と評価を示した。

中国・ロシアとの関係が冷え込む中、日本は両国指導者とまともに話せる政治家を失ってしまったといえる。

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