tl_bnr_land

高齢親の判断能力が十分なうちに 未来の安心を担保する「任意後見契約」のメリットと手続き【社会福祉士が解説】

もくもくライターズ もくもくライターズ

30代、会社員の酒井さん(仮名)は、最近70代になった父親の物忘れが少しずつ増えてきたことに不安を感じていました。「もし父が認知症になって、実家の売却や銀行口座の管理ができなくなったらどうしよう……」。そんな時、酒井さんは親が元気なうちに将来のサポート役を自分で指名できる「任意後見契約」という制度を知りました。

「まだ元気だから大丈夫」と思っていても、認知症などで判断能力が低下してしまうと、口座取引が制限されたり、必要な介護・医療の手続きがスムーズに進まなくなったりするリスクがあります。そこで準備しておきたいのが「任意後見契約」です。

任意後見制度とは?元気なうちに「未来のサポート」を託す仕組み

任意後見制度とは、一言で言えば「本人の判断能力が十分にあるうちに、将来に備えて財産管理や生活上のサポートを委任する契約」です。

親が元気なうちに「もし自分が認知症になったら、この人にこれをお願いね」と、信頼できる子どもや専門家をあらかじめ後見人に指名し、その内容を公正証書で契約しておきます。

具体的に委任できる業務は、財産管理(預貯金の出し入れ、生活費や医療費の支払い、不動産の管理・処分など)、身上監護(介護施設への入所手続き、医療契約の締結、生活環境の整備など)の2つです。

「法定後見」との違いと、制度見直しの動き

現在の成年後見制度には、すでに判断能力が低下した後に利用する「法定後見」と、元気なうちに備える「任意後見」の2種類があります。その大きな違いは、「後見人を誰が選ぶか」にあります。

本人の判断能力が不十分になってしまった後から後見人を選定するのが「法定後見」です。後見人は家庭裁判所が選任し、必ずしも親族が選ばれるとは限らず、司法書士や弁護士、社会福祉士などが選任されることが多いのが現状です。また、本人の何をサポートするのかを決めるのも法律や本人の状態に応じて家庭裁判所が決定します。

一方、本人の判断能力が十分あるうちに後見人を選定するのが「任意後見」です。誰を後見人にするのかは本人が自由に選べ、サポートの内容も後見人と話し合いの上、契約によって決めることができます。

2026年6月、成年後見制度の抜本的な見直しを含む改正民法が成立しました。従来の法定後見には、「一度始めると原則としてやめにくい」「本人の自己決定権が制限されやすい」といった使い勝手の悪さが指摘されてきました。今回の改正では、本人の意思をより尊重し、必要な範囲・期間に応じて支援を受けられる制度へ見直す内容が盛り込まれています。これにより、施行後は、より本人の意思を尊重した支援が行われることが期待されています。

気になる費用は?任意後見契約にかかるコストの目安

任意後見契約を利用するうえで必要になる費用は「契約時(初期費用)」と「運用開始後(月々の報酬)」の2つのフェーズに分かれます。

任意後見契約は、必ず公証役場で「公正証書」を作成する必要があります。そのために、公正証書作成費用などで約2万〜3万円(公証人手数料、印紙代、登記用の実費など)が必要になります。

実際に任意後見がスタートしてから発生する費用として任意後見人への報酬がありますが、親族(子どもなど)が引き受ける場合、無報酬(0円)または数万円など、親子間で自由に設定可能です。ただし、専門家(弁護士・司法書士等)に依頼する場合は月々2万〜5万円程度が相場です。

さらに、任意後見が始まると、後見人が不正をしないよう家庭裁判所が「任意後見監督人」というチェック役(主に弁護士などの専門家)を必ず選びます。この任意後見監督人への報酬は、一般的には月々1万〜3万円程度を目安とされており、親の財産から支払われます。

準備からスタートまで!任意後見契約の具体的な4ステップ

ステップ1:親子間での話し合いと後見人の決定

まずは親子で将来について話し合い、誰を後見人にするかを決めます。酒井さんの父親のように、信頼できる子どもを指名するケースが多いです。

ステップ2:委任する内容(ライフプラン)の決定

財産管理をどこまで任せるか、どのような介護を受けたいか、具体的な希望を書き出してまとめます。

なお、後見人としての立場では医療行為そのものに対する同意や拒否を行う権限はありません。ただし、本人の意向を医療チームへ伝え、必要な情報共有を行うことは可能です。

ステップ3:公証役場で「公正証書」の作成

親(委任者)と子ども(受任者)が一緒に公証役場へ行き、公証人の立ち会いのもとで「任意後見契約公正証書」を作成・締結します。これにより、法務局に自動的に登記されます。

※この段階では契約が成立しただけで、まだ後見はスタートしていません。親はこれまで通り自分で財産を管理します。

ステップ4:家庭裁判所への申し立て(将来、判断能力が低下した時)

その後、親の認知症が進行した段階で、病院の診断書を添えて家庭裁判所へ「任意後見監督人の選任」を申し立てます。監督人が選ばれたその日から、いよいよ任意後見の効力が発生し、子どものサポートが始まります。

大切な親の未来を守るために、今できること

酒井さんは、家族を交えて父親と話をし、任意後見契約を結びました。

認知症が進行し、本人の判断能力が失われてからでは、任意後見契約を結ぶことは法律上できません。親が自分の言葉で未来を選べるうちに、親子で一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士、身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース