50歳の会社員、真由美さん(仮名)は、近隣で一人暮らしをする母親が脳梗塞で倒れたという知らせを受けました。母親は退院後も右半身にまひが残り、歩行や入浴に介助が必要となりました。仕事と介護を両立できるのか見通しが立たず、「もう仕事を辞めるしかない」と思い詰めたといいます。
ところが、職場の上司に相談したところ、「介護休業」という制度があることを初めて知りました。地域の相談窓口にもつながり、母親の介護体制を整えながら、退職せずに働き続ける道を探すことになりました。
介護離職の前に確認したい5つの制度・相談先
厚生労働省の「雇用動向調査結果の概況」(2024年)によると、「介護・看護」を理由に離職した人は約9万人に上ります。
介護は突然、始まることがあります。仕事を辞めてからではなく、辞める前に職場や地域の窓口へ相談することが重要です。
①介護休業・介護休暇:まとまった休みや短時間の休みを取れる
介護休業・介護休暇は、要介護状態にある対象家族の介護や病院の付き添い、介護保険サービスの手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせなどに利用できる制度です。
介護休業は対象の家族1人につき通算93日まで、最大3回まで分割して取得が可能です。
一方、介護休暇は一時的なお世話のために取得できるもので、対象家族が1人の場合は年間5日、2人以上の場合は年間10日まで、1日または時間単位で取得できます。2025年4月からは、勤続6カ月未満の労働者を労使協定で対象外とする仕組みが廃止されました。ただし、労使協定により、週の所定労働日数が2日以下の労働者などが対象外となる場合があります。
給与の支払いは義務ではないため、無給となる場合もありますが、介護休業・介護休暇の取得を理由として、労働者に不利益な扱いをすることは禁止されています。急な通院の付き添いや介護サービスの手続きなどに利用でき、仕事と介護の両立に役立ちます。
②介護休業給付金:休業中の収入減を補う
介護休業給付金は、家族を介護するために介護休業を取得した雇用保険の被保険者に支給される給付金です。支給額は原則として、休業する直前6カ月間の賃金総額(基本給、諸手当、残業代含む)を180で除した賃金日額×支給日数×67%です。
対象家族1人につき、3回を上限として通算93日まで取得できます。たとえば、休業開始前の平均月額が30万円程度(賃金日額1万円)で、介護休業期間中に賃金の支払いがない場合、給付額は1カ月当たり約20万1000円です。
支給には、原則として介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12カ月以上あることなどの要件があります。申請は、事業主を経由してハローワークへ行うのが一般的です。勤務状況によって支給額や対象要件が異なるため、職場の人事・労務担当者に確認してください。
③時短勤務やフレックスタイム制:働き方を調整する
事業主は、対象家族1人につき、利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上利用できるよう、次のいずれかの措置を設ける必要があります。
・短時間勤務制度(1日6時間など)
・フレックスタイム制度
・始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ
・介護サービス費用の助成など
こうした制度を利用することで、通院の付き添いや急な呼び出しにも対応しやすくなります。まずは職場の人事・労務担当者に、利用できる制度を確認してみましょう。
④ケアマネジャーへの相談:介護サービスの組み合わせを相談する
ケアマネジャーは、介護支援専門員とも呼ばれます。要介護1〜5と認定された人が在宅で介護サービスを利用する場合、本人や家族の状況に応じてケアプランを作成し、サービス事業者との調整を行います。ケアプランの作成について、利用者の自己負担はありません。
「仕事を辞めないと介護できない」と感じたときは、早めにケアマネジャーへ相談することも大切です。すでに要介護認定を受けている場合は、担当のケアマネジャーが相談先になります。
⑤地域包括支援センター:介護に迷ったときの最初の相談窓口
まだ要介護認定を受けていない場合や、相談先が分からない場合は、親が住んでいる地域の地域包括支援センターに相談してください。最寄りのセンターは、市区町村のウェブサイトや厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」で確認できます。
地域包括支援センターは、市区町村が設置主体となる高齢者の総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが連携し、介護に関する相談に対応しています。
離職前に収入や将来への影響を確認する
介護のために離職すると、その後の給与だけでなく、退職金や将来の年金にも影響する可能性があります。その影響の大きさは、年齢や雇用形態、離職期間、その後の働き方によって異なります。離職を決める前に、勤務先の制度や利用できる介護サービスを確認しておくことが重要です。
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真由美さんは、介護休業中にケアマネジャーへ相談し、デイサービスや訪問介護を組み合わせました。仕事に復帰した現在は、帰宅途中に母親の家へ立ち寄り、その日の様子を見ながら、夕食の準備や身の回りのことを手伝っています。
介護が始まったとき、一人で抱え込む必要はありません。まずは勤務先の人事・労務担当者、担当のケアマネジャー、親が住んでいる地域の地域包括支援センターに相談してください。制度を知り、使える支援を確認することが、仕事と介護を両立するための第一歩です。
【出典】
厚生労働省「育児・介護休業法(2025年4月改正)」
ハローワーク各種制度案内(2025年4月改正反映)
厚生労働省「ケアマネジメントの概要」
厚生労働省「地域包括支援センターの概要」
厚生労働省「雇用動向調査」(2024年)
公益財団法人生命保険文化センター(2024年)
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士、身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。