ドイツでのG7サミット直後、G7各国の首脳たちは一斉にスペインに移動し、首都マドリードでNATO首脳会合に参加した。6月28日から2日間の日程で行われた首脳会合では大きく3つのポイントがある。
1つは、ロシアによるウクライナ侵攻によって北欧のフィンランドとスウェーデンが相次いでNATO加盟申請を行い、トルコが最後まで渋ったものの、両国の加盟が確実となった。これでNATOは今後32カ国体制となる。また、ウクライナに侵攻したロシアに対する危機感を欧米諸国は高め、NATOではロシアを安全保障上最大で直接的な脅威と位置づけ、覇権活動を続ける中国についても初めて強い懸念が示された。さらに画期的なのは、今回のNATO首脳会合にはオーストラリアやニュージーランドだけでなく、日本や韓国の指導者たちも参加し、NATOとインド太平洋が今後結束を強化していく方針も示された。
日本の総理として初めてNATO首脳会合に参加した岸田首相は、覇権主義的な動きを強める中国を念頭に、NATO加盟国に日本が直面する厳しい東アジアの安全保障環境への理解を求め、日本とNATO間で安全保障上の協力を強化していく意思を表明した。また、日本とNATO間の長期的な関係強化のため、岸田首相はNATOの最高意思決定機関である北大西洋理事会に定期的に参加する意思も示した。岸田首相はこれまで、「ウクライナで起こったことが東アジアで起こらない保証はない」と強い危機感を繰り返し示してきたが、それが今回のNATO首脳会合参加に繋がった。
しかし、これによって東アジアの危険度はいっそう増すことになろう。一連のNATO首脳会合を受け、ロシアと中国は早速強く反発している。ウクライナ侵攻後初めて外国(トルクメニスタン)を訪問中のプーチン大統領は、NATOが帝国主義的な行動をエスカレートさせていると非難し、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟について、今後両国にNATOの軍事施設が設置されることになればロシアは相応の対抗措置を取るとけん制した。また、中国外務省の報道官は、近年NATOが地域を超えて我々に対抗しようとしていると苛立ちを示し、NATO首脳会議に日本や韓国などが初参加したことに警戒感をあらわにした。
今後、東アジアでは危険な行動が顕著になるであろう。昨今、中国海軍とロシア海軍の艦艇やフリゲート艦が、日本海から津軽海峡を通過して太平洋に向かい、千葉の犬吠埼沖、高知の足摺岬沖、鹿児島県の大隅海峡をそれぞれ通過して東シナ海に至るなど、中露が結束して日本をけん制する軍事的行動が増えている。日本が米国だけでなくNATOに首を突っこ込うもうとする動きに乗じて、今後ロシアは北海道周辺や日本海、太平洋で軍事的威嚇をエスカレートさせるだけでなく、中国との軍事的結束をこれまで以上に図る恐れがある。日本としては、海空の両面からの防衛力強化が必要になってきそうだ。
また、韓国のユン大統領もNATO首脳会合に参加し、現地では北朝鮮を念頭に置いた日米韓による首脳会談が5年ぶりに開催された。これまで韓国は経済の対中依存度を考慮し、中国を刺激しないよう安定的な関係を維持してきたが、ユン大統領が明らかな中国離反の姿勢に傾斜していることから、今後は中韓の間で緊張が高まる恐れがある。そして、韓国が日本や米国、NATO重視の姿勢を取ることで、北朝鮮による核ミサイルの行動に拍車が掛かる恐れが懸念される。
今日、日韓指導者のNATO首脳会合参加もあり、日韓と中露北という軸でより不安定化する様相を呈している。我々は日本のNATO接近による反動を今後より注視していく必要がある。