世界で唯一の「妖怪書家」はミス奈良だった 有名寺院の奉納から黒い妖怪ウオッチ、メガトン級ムサシまで

山本 智行 山本 智行

奈良県在住で「妖怪書家」として活躍する逢香(おうか)さん(28)の個展「妖怪POP」が7月16日から奈良市美術館で開かれることが決まり、早くも話題になっている。大胆な筆づかいとユニークな作風が特徴のいま最も勢いのある女流書家。その一方でミス奈良に選ばれ、現在は奈良市観光大使も務める。そんな才女を突撃取材した。

逢香は雅号。妖怪書家と聞いて妖怪人間ベラのような人が現れるのではと身構えていると、全然イメージが違った。ぱっつん前髪のキュートなルックス。なるほど、学生時代にミス奈良に選ばれ、現在、奈良市観光大使を務めているのも分かる気がした。

そんな逢香さんは世界でただ1人の妖怪書家を名乗り、硬軟織り交ぜた様々なジャンルやテーマにチャレンジ。新境地を切り開いてきた。

妖怪書家とはいえ、書もうまい。大仕事といえば、やはり2020年に開催された「橿原神宮 御鎮座百三十年記念大祭」の揮毫。この年には世界遺産「元興寺」から奉納の依頼を受け、絵馬の書・画・印のデザイン一式を手がける大役も担った。

最近で言えば、奈良県明日香村にある高松塚古墳など4カ所につくられたオリジナル御朱印に一筆啓上している。御朱印は「飛鳥乃余韻」と名づけられ、例えば高松塚古墳は飛鳥美人をイメージし、女性らしい字体に。キトラ古墳は壁画の天文図から古代の星空を感じさせる神秘的で、なおかつ躍動感あふれるものになっている。

「それぞれ実際に現地に出かけ、それを書体で表現しました。石舞台古墳はどうやって運んだのかと思いましたし、石の巨大さ、パワーを感じ、荒々しく書いてみました」

表情豊かに身振り手ぶりを交えて話してくれた逢香さんは大阪で生まれ、その後、奈良へ。書道教室を開いていた母の指導で6歳から書道を習い、奈良教育大学在学中に書道師範になった。中高時代は「同級生のトレンド的な話題についていけなかった」少女だったとか。それが今ではNHK奈良「逢香の華やぐ大和」でリポーターとして奈良の魅力を紹介しているのだから不思議だ。

妖怪との出会いは、大学時の変体仮名の授業。江戸文化を崩し字と妖怪の絵で表した娯楽本「草双紙(くさぞうし)」に触れ「ナンセンスでおちゃめ。発想がおもしろい。ストンと心に入り込んで来た」と言う。

作品はすべて奈良の墨を使う。あまり知られていないが、全国シェア95%だとか。これまで個展は世界遺産「金峯山寺」などでも開いてきたが、今回の「妖怪POP」はスケールがちょっと違う。

「会場は立派な奈良市美術館ですし、期間も長い。展示する作品数は大きなものから小さなものまであって、数え切れないほど。集大成と言うには早すぎますが、自身最大であることは間違いありません」

個人的には風刺画がお気に入り。ヒールに踏まれる妖怪たちを表現した「赤いハイヒール」は人間世界に追い込まれた妖怪たちの悲哀を感じさせながら、どこかに明るさや救いがある。怖い般若が角を切り、赤い紅をさしている「I am a woman」も哀愁たっぷり。ちょんまげにはかま姿の福助がスマホをいじり「気がついたらすぐこれですよ」ともらしている姿はクスッと笑える。

一方ではアニメの題材にもチャレンジ。2017年には「妖怪ウォッチ」の異色シリーズ「黒い妖怪ウォッチ」を手がけ、ほのぼのとしたジバニャンやコマさんを不気味な感じに描くと「ブラックな内容」が評判になった。

また最近では「メガトン級ムサシ」の題字やサブタイトルも担当。最終的に世に出た完成形は、制作者の意図を反映させながら字のかすれ具合まで気を配りながら100枚以上書き上げた中の1枚だそうだ。スランプもあったというが、「そんなときは書物を読んだりして時間を有効活用しています」と笑う。

今回の個展は、これらの作品を一堂に集めたもの。確かに、その振り幅の大きさには驚かされるばかりだ。

「コロナで暗くなったいま、お年寄りから子どもたちまで絵を見て楽しんでほしいです。日本各地、いや、世界にはいろいろな妖怪や化けものがいるので、見て知って、奈良の墨を使って作品をつくっていきたい。そして、様々な業界の方と新たなコラボ作品を産み出せたらと思います」

この先、どう進んで行くのか。逢香さんの創作への情熱は尽きることはない。

◇「妖怪POP」
会期=2022年7月16日~8月21日
会場=奈良市美術館
入館無料
問い合わせ先=電話 0742(30)1510

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