ご飯にかけて混ぜるだけで酢飯ができる優れもの「すしのこ」。手巻き寿司パーティーなど、家族団らんの場面で使った方も多いのではないでしょうか?実は、世界で初めて“食酢の粉末化”に成功した画期的な商品でもあります。製造しているのは、大阪・堺に本社を置く老舗企業「タマノイ酢」です。
今年4月に就任した、若き代表取締役社長である播野貴也さんに「すしのこ」の誕生秘話について伺いました。実はすし酢を作る予定はなかったなど、意外なエピソードを明かします。
重く持ち運びしづらい「甕入り酢」…そこに訪れた「粉末化ブーム」
お酢の歴史は古く、約1600年前、朝鮮半島から現在の堺市に伝わったと言われています。その後時は流れ、明治時代に5つの酢蔵が集まり、「タマノイ酢」が創業。戦前から甕に入ったお酢を販売していましたが、その重さから流通には多くのコストや手間がかかってしまうものでした。
そんな中、昭和30年頃になると鰹節や昆布、カレーパウダーなど色々なものを粉末にするブームがあり、粉末調味料の販売量が急拡大してました。それを目の当たりにした見た明は、お酢を粉末にすることで運びやすくなり、流通の問題を解決できると考え、世界初の粉末酢の開発をスタートさせました。
なぜかダマになる粉末!「ある食材」を入れることで解決するも...
しかし… 開発の段階でどうしても解決できない問題が発生します。粉末酢は吸湿性が高く、気温や湿度の影響を受けやすい性質があり、少しの湿気でも簡単に固結化しダマになってしまうのです。
この問題を抱えたまま数カ月が経過した頃、明は苦渋の決断として、味が付くことを承知の上で砂糖を混ぜることにしました。その結果、固結する問題は見事に解決したのです。
その一方で、「粉末が甘くなる」という新たな課題が発生しました。しかし、これを逆手に取ることで状況が一変します。甘みのある味がすし酢のようになったため、そのまま「すし酢」として販売することにしたのです。
当時の昭和30年代は、チラシ寿司や手巻き寿司などで家庭で酢飯を作る機会が増加していました。しかし、砂糖の配合やご飯の炊き具合など、酢飯作りには手間と経験が必要でした。お酢に砂糖を加える手間を省ける商品は、ビジネスチャンスになると考えたのです。
その後、何年にもわたる研究の末、1963年に「すしのこ」が完成しました。ロングセラー商品「すしのこ」は、本来目指していたものとは違う味になってしまったマイナス面をプラスに捉えることで生み出されたのです。