山中を放浪していた野犬、初対面では1歩も動かず目も合わせてくれず いまでは自己主張ができるまでに成長

渡辺 陽 渡辺 陽

山中をさまよっていた野犬

ルリちゃん(5歳・メス)は、2018年5月頃、茨城県の山中を放浪していたところ、茨城県動物指導センターが設置した捕獲機で捕獲された。捕獲当初、全く動かずに縮こまっていたので、怪我や病気で動けないのかもしれないと、「負傷犬」として収容されたという。検査をしたが異常はなく、ただただ恐怖で動けなくなっていたことが分かった。ルリちゃんは、その後も1年以上、隅っこで小さくなって過ごしていたそうだ。

2019年9月、保護団体がルリちゃんをセンターから引き出し、家庭犬になるためのトレーニングをした。

目も合わせてくれない

東京都に住む大井さんは、幼い頃から動物が好きで、さまざまな動物と暮らしてきた。ただ、犬だけは家の事情で飼うことができず、しかし、どうしても犬と触れ合いたいと思い、動物病院に就職。動物看護師になったという。

大井さんは、結婚を機に引っ越し、スペースに余裕ができたので犬を迎えることにした。憧れの犬種はあったが、ペットショップで買うのではなく、保護犬を迎えたいと思ったという。

「ペット業界に就職して、さまざまな裏側を知ってしまったので、飼うなら保護犬と思っていました。譲渡サイトやSNSで探して、インスタグラムに掲載されていたルリを見つけました」

2020年6月、大井さんはルリちゃんに会いに行った。ルリちゃんはおやつは食べてくれたが、1歩も動かず、目も合わせなかった。団体のスタッフに促されて散歩しようとしたが、大井さん夫妻から逃げようと力一杯匍匐前進したという。最後は、物音に驚いて半ばパニックになり、お漏らししてしまった。

こういう子だからこそうちに来てほしい

初対面のルリちゃんは心を閉ざしていたが、大井さんは動物看護師なので、「こういう子だからこそ我が家にぴったりなのでは。シャンプーも予防注射も自宅で済ませられる。ぜひ来て欲しい!」という思ったそうだ。

「うちには先住猫のリブがいたので、大人しく攻撃性のない性格の子を探していたのです。その点でもルリちゃんは理想の子でした」

2020年7月からトライアルが始まった。約1ヶ月の期間を経て正式譲渡。団体ではウルちゃんという名前で呼ばれていたが、心機一転、ルリちゃんという名前で大井家の一員になったという。

自信がついて、お散歩を楽しめるように

元野犬だったルリちゃんは、とても怖がりで、視界に入るものほとんど全てが恐怖の対象だった。家の中でも定位置から一歩も動かず、ごはんや水は夜中にこっそり済ませ、小さなゴミが落ちているだけで飛び上がり、ただの壁ですら怖がってお漏らしした。散歩も少しルートを変えるだけで下痢をしたので、大井さんはあらゆることに気を遣った。

散歩の時、いつも尻尾が下がっていたので、通りすがりの人から「あの犬、尻尾を丸めて怯えている。かわいそうに」と、虐待しているようにこそこそ噂話をされたこともあるという。

ルリちゃんは、今では驚いて飛び上がることもなくなり、尻尾を上げて真っ直ぐに歩けるようになった。
「いつも気配を消して生活しているような子だったのですが、自己主張もできるようになりました。怖いものがなくなったわけではありませんが、日々着実に成長しています」

大井さんは、最近、ペットショップで購入するのではなく、ブリーダーからレスキューされた子など、保護犬を家族に迎える人が増えてきたと感じている。

「保護犬を迎えるという選択が、珍しいものでなくなったらいいなと思います。ルリとたくさんお出かけをして、保護犬の存在をより多くの人に知ってもらえたらと思います」

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