イラストレーター・漫画家として活躍されているミカヅキユミさん。
ミカヅキさんは、生まれつき耳が聴こえないというハンディキャップを抱え、普段から手話や筆談、読唇によって人とコミュニケーションを取っています。相手から手話で積極的に話しかけられたりすると、とても嬉しく感じるとのこと。
しかし、「手話を使える人が必ずしもいい人とは限らない」と痛感した体験もあったといいます。その時のエピソードは、ご自身のブログに『手話で話せる人はいい人?聴こえない私がハマった落とし穴』というタイトルで公開されています。
親切にしてくれた女性に初めは好感を覚えたものの…
ある日のこと。検診のため病院に来ていたミカヅキさん。受付から口頭で指示がありますが、ミカヅキさんはその内容が聞き取れません。すると、後ろに並んでいた女性が、手話でフォローをしてくれました。
手慣れた様子で、受付の人の話の内容を手話で伝えてくれた女性。このように手話で親切にされたことははじめてだったというミカヅキさん。さらに、その女性は「お話してみたかった」と、出口で待っていてもくれました。
当時、息子さんが小さく、子育てに追われて手話サークルにも顔を出せていなかったというミカヅキさん。久々に誰かと手話で話せてとても嬉しかったといいます。
その女性・カネコさんとは、今度二人でランチに行こうという約束もしました。
そして後日、カネコさんからお誘いが。「私の勤務先に来て」というメールの内容に違和感を覚えますが、「ま、いっか」と深くは考えずにカネコさんに従います。
しかし、行ってみると、ランチの約束のはずが会社の中にまで案内され、「オススメしたい商品があるの」とある商品を見せられました。
ミカヅキさんはここで気づきました。これはマルチ商法の勧誘だったのです。
マルチ商法とは、購入者が販売者となってまた別の人に商品を売り、それを連鎖的に拡大していくという商売の方法。日本でも認められている販売方法であり、実際にマルチ商法を販売戦略に取り入れている有名企業も多くあります。
しかしながら、購入者が販売者になるという手法から、「相手に言葉巧みに誘い出されて商品を売りつけられた」というような事例も多く、消費者トラブルや人間関係の破綻といった問題につながることも少なくありません。
ランチを口実に呼び出され勧誘されたミカヅキさんも、当然気分が良いものではありませんでした。しかも、ミカヅキさんがそれを断ったところ、カネコさんは「それなら、ろうの友達を紹介して」とまで言ってきました。
相手の利益のために手話を使われたうえに、同じ境遇にいる自分の友人まで巻き込もうとされたことに、ミカヅキさんは大きな悲しみと怒りを覚えます。
感情を抑えつつ、その時は穏便に対応して、その場を後にしたというミカヅキさん。カネコさんからは、「また会おう」と連絡があったものの、返信はしなかったそうです。
聴こえる人には分からない…コミュニケーション上での孤独や悲しみ
マルチ商法の勧誘のターゲットにされてしまったミカヅキさんは、大きなショックを受け、手話で話せる人がみんな「いい人」とは限らない…と痛感したといいます。
しかし、それでも相手に対して「(手話によって)言葉が見える心地よさも感じてしまう…」という、矛盾した感情があることにも気づきました。
耳が聴こえないというハンディキャップを抱え、これまで「通じにくい」社会で生きてきたミカヅキさん。一般の人には分からない孤独や悲しみを覚えることも少なくありませんでした。
「病院やお店などで、筆談をお願いしても『大きな声で耳元で話せばわかるでしょう』などと誤った認識を持たれたり、私と会話をするのを避けて『聴こえるご家族はおりませんか?』と言われたりすることもあります」(ミカヅキさん)
一般の「聴こえる」人どうしでは、発語による音声の会話が普通です。しかし、生まれつき耳が聴こえないミカヅキさんはそれができず、筆談など別の方法を用いる必要があります。そんなミカヅキさんを理解しようとしなかったり、向き合おうとしない人も世間には多く、そのような時ミカヅキさんは、「頭のてっぺんが冷たくなる」ような苦しさを覚えるといいます。
もちろん、相手にも事情があり、筆談などに時間を割くことが難しいこともあるでしょう。ミカヅキさんはそのことも理解しており、葛藤を抱えつつも「私と話してほしい、社会とつながりたい」とずっと訴え続けているといいます。
このように、社会での“通じにくさ”を感じることがあるというミカヅキさん。もっと人と関わりたい、自分と向き合って欲しい――。そのように感じるのは当然のことです。しかし、その想いがかえって、落とし穴にハマってしまう要因になることも。
「偶然出会った人がたまたま手話や我々の“生きにくさ”を知っていると、『社会の中に理解者がいた!』という錯覚を起こしてしまうんだろうな、と思います」(ミカヅキさん)
今でも手話を使える人を見ると、単純だと思いつつもつい嬉しくなってしまうというジレンマを抱えているといいます。
しかし、カネコさんとの一件もあり、ミカヅキさんは現在「手話で話せる=理解者」と、あえて短絡的には考えないようにしているそう。むしろ、一見理解がないように見えても、ストレートに自分の気持ちをぶつけてきてくれる人に対して、将来性を感じる時もあるといいます。
コミュニケーションが取れることと、人として信頼できることは別だということを学んだミカヅキさん。「手話が使える」というだけで相手を安易に判断せず、「自分の周りにいる信頼できる人たちを大切にしたい」と感じています。
辛さや悲しさも受け止めながら、身近な人たちとまっすぐ向き合って――
ミカヅキさんのコミックエッセイやツイートでは、日常の中での辛かった経験や悩みなどを包み隠さず訴えるような内容もある一方で、そのうえで家族や友人といった身近な人たちとを大切にされている姿も描かれています。
「今まで生きてきて、私のことをまるごと受け入れてくれた人たちとの出会いは大きいです。この私で良いのだと思えているからこそ、多少人と異なるところがあっても、『まぁいっかぁ!』と思えます」(ミカヅキさん)
良い人との出会いによって、自分自身を肯定することができたというミカヅキさん。自分のみならず、相手のこともなるべく、一方向ではなくあらゆる角度から見つめられるようにしたいといいます。
現在は、旦那さんや2人のお子さんと暮らしているミカヅキさん。家族への想いについては、このように話します。
「会話を大切にしています。些細なことでも、疑問を感じたら言い合うようにしています。家族にとって、自分たちの家が泣いたり笑ったり怒ったりダラダラできたり――居心地のいい場所でありますように…と願っています」(ミカヅキさん)
◇ ◇
ミカヅキさんは苦労や悲しい経験もたくさんされながら、信頼できる人たちとの出会いを通じ、自分自身も他人もまっすぐに受け入れて、幸せな人生を歩まれているように感じます。
ミカヅキさんのブログ「背中をポンポン」では、そんなご自身の日常や思い出話をコミックエッセイで紹介。日々を前向きに楽しく生きられているミカヅキさんの姿が描かれています。
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