「この歳になって『僕は内気でシャイです』なんて言える人間ではないですが、基本的には“どうせ俺なんか思考”は強いです。3月の早生まれということもあるのかな…常に周りから取り残されている感は子供のころからありました。それは今も昔も変わらないですね」。
斉藤和義に連絡しました
コメディ作品ではインパクト大の存在感で観客を笑わせ、撮影現場や舞台挨拶でもその場の雰囲気を柔らかくしてくれる。俳優の竹中直人(66)にはサービス精神という言葉がよく似合う。玉木宏主演の連続ドラマを映画化した『極主夫道 ザ・シネマ』(6月3日公開)では極道の組長役ながらも、スーパーの警備員として暴れたり、共演の志尊淳との丁々発止のやり取りを発展させたり、嬉々としたハッスルぶりを見せてくる。
「今回のロケ場所の一つが栃木県宇都宮市にあるオリオン通りでした。斉藤和義くんの生まれ故郷に近いので、その日に和義に連絡しました。学生時代、その付近でアルバイトをしていたらしく『懐かしい~!』って喜んでくれて。なんか嬉しかったな」と人の好さをうかがわせるも「自分が監督した作品ならばもちろん観ますが、自分が出演している作品は恥ずかしくて観れないんです」と申し訳なさそうに照れる。
常にゼロ感覚があります
確かにこのインタビューでのスチール撮影の際、写りや構図を確認してもらおうと撮影した写真を差し出すと、まるでドラキュラが十字架を恐れるように「やめて!やめて!」と両手を顔の前で振り回すという竹中の姿があった。「恥ずかしい」という言葉は謙遜ではなく、本気モードの心境なのだろう。
スクリーン上での姿との大きな差。キャリアを重ねて名声を得ても劣等感は払拭されないらしい。「これまでの活動を“キャリア”なんて捉え方をしたことはないな。僕のやっているお仕事は、お客様に観てもらわなければ何もしていないのと同じ。僕が『映画を監督したぜ!』と言っても、『日本映画は観ないんだよー』って言われてしまえばそれまでの話ですからね。常にゼロ感覚があります」。
自信という概念すらない。「僕の芝居を面白いと言ってくれる人もいれば、つまらねぇーよという人もいる。極論をいえば、数字を取れたものが正義で、数字を取れないものは無きものとされる。せつない世界です。だから僕には自信を持って生きるなんて無理ですね」。
パッケージを持っていたい
視座にあるのは“どうせ俺なんて”。しかしニヒリスティックの沼の直前で竹中を押しとどめているのは、つげ義春や石井隆の世界、暗闇に身を沈めて観る映画や音楽。表現の場や方法は俳優とは違うのかもしれないが、モノづくりという共通言語で繋がる同業者たちの存在だ。
「自宅では映画を観たり、音楽を聴いたりしています。映画館で観て感動した映画のソフトは必ず買います。僕は『ハロウィン』シリーズが大好きで、『ハロウィン KILLS』は最高でした。年齢を重ねてもなお奮闘するジェイミー・リー・カーティスの姿を自宅で再び観ることができて嬉しかった。最近は動画配信も増えましたが、僕はやはりパッケージを持っていたいです。LD時代からジャケットデザインが好きで、特に海外盤のデザインは素晴らしくてジャケ買いもよくしていました」。
飼い猫は神木隆之介の役名から
独身時代は猫を12匹程飼っていたこともあるという猫好き。現在はホロという名のアメリカンショートヘアのオス猫を飼っている。「猫が癒しです!とか、そんな次元ではなく、ただ猫と一緒に暮らしているという感じかな。ホロという名は昔出演したTBSのドラマ『あいくるしい』で僕の息子役を演じた神木隆之介君の役名から拝借しました。ホロという音の響きが気に入っていたので」と教えてくれた。
つげ義春原作の映画『無能の人』(1991年)で映画監督としてデビュー。10作目の映画監督作も期待したいところだが「漫画でも音楽でも直感的に惹かれたものを映画にしたい。簡単にお金が集まるわけではないけれど、全てのタイミングが合えば映画は撮り続けていたいです」と消極的ながらも創作意欲は燃え盛っている。