免許は不要、ヘルメットは任意 電動キックボードの規制緩和に開発者が警鐘ツイート「非常に危険」「後で大きなしっぺ返し」

竹内 章 竹内 章

最高速度が20キロメートル以下の電動キックボードについては、16歳以上ならば免許不要で運転できるようになった道路交通法改正案が成立しました。ちょっとした移動の足として海外では普及している便利な道具ですが、明らかに規制緩和に踏み込んだ今回の法改正に、「事故が増えるのでは」と心配の声が上がっています。Twitterで「現状の日本道路行政のままで免許不要(安全教育なし)で運用するのは非常に危険」「特性の理解や操作の練習なしに公道を気軽に走らせるのは後で大きなしっぺ返しが来る」と警鐘を鳴らした電動キックボードの設計開発者に聞きました。

現状、電動キックボードは道交法上、原付またはミニカーに分類され、公道を走るには原付免許または普通免許が必要です。また、産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」で認可された事業者が貸し出す、いわゆる特例電動キックボードを除いて、ヘルメットの着用が求められます。

今回の法改正に伴い今後2年以内の施行を目指して様々な調整が始まります。改正内容は以下の通りです。
・最高速度が時速20キロメートル以下など、一定要件を満たす電動キックボードを新たな車両区分である「特定小型原動機付自転車」に位置づける。
・特定小型原動機付自転車には、16歳以上なら免許不要で乗車できるようになる。
・ヘルメットの着用は任意となり、車道に加えて普通自転車専用通行帯、自転車道も走行できる。

後で大きなしっぺ返しが

懸念を投稿したのは、電動キックボード「Sunameri」などを開発した三重県鈴鹿市のメーカー「フヂイエンヂニアリング」の社長、藤井充さんです。試乗の感想を「かなり快適」とした国会議員のツイートを引用し、「ばんばん車が走ってて、路上駐車をしてて、路肩がでこぼこな車道を選び、滑りやすい雨の日の夕方に試乗会をやったらいいのでは?」と指摘したフリーライターの鈴木智彦さんのツイートにリプライする形で思いを明らかにしました。

「電動キックボードの開発者です。使い方によってはとても便利な道具ですが、小径タイヤ故に自転車やバイクよりも路面の影響を受け易く、現状の日本道路行政のままで免許不要(安全教育なし)で運用するのは非常に危険です。いろんな意味で危うい試みだと感じています。」(4月20日)
「立ち乗りモビリティは、自転車やバイクと比較して重心位置が高いので、急制動が苦手です。(転びやすい)中国製の車体は走行性能が低いのでより不安定です。そういう特性の理解や、操作の練習無しに公道を気軽に走らせるのは後で大きなしっぺ返しが来るのだろうなと想像しています。」(4月21日)

「リスクへの見積もりが甘いのでは」

コンサルのレポートによると、電動キックボードの市場規模はシェアリング事業だけでも1兆円規模とみられます。車体については、完成品を輸入▽部品の製造は海外、組み立ては日本ーなどさまざまな形態があります。フヂイエンヂニアリングは開発、部品製造、組み立てに至るまで全工程が国内です。藤井さんに聞きました。

ー国会議員の試乗会のツイートについて

「法改正に至る経緯について国会議員がどこまでご存じか私には判りません。慎重に検討した結果かもしれませんので、批判すべきか迷うところもあります。とはいえ、改正については、やや勇み足というか、その先にあるリスクの見積りが甘いのでは?と感じています」

ー海外では、事故多発を受けて登録免許制度にするなど厳格化する国もあるようです

「日本の交通行政や法律は、海外先進国と比較すると、これまでは保守的というか一歩遅れた対応という歴史がありました。今回は先んじて規制緩和のような施策なので意外に感じています。厳格化が正義とは思いませんが、規制緩和するのに必要な準備は間に合っていないと思います。今回のレベルの規制緩和を実施するのであれば、安全教育訓練の認知拡大に加えて、道路の整備(自転車走行帯の整備)を全国的に行う必要があります」

ーnoteでは「非常に利便性高く、楽しさもあり、素晴らしい乗り物」とする一方、デメリットのひとつに交通の中での危険性を挙げています

「(1)一般論として走行性能は自転車以上バイク未満(2)小径タイヤなので荒れた路面や段差は苦手(3)立ち乗りで重心が高いため、急激な姿勢変化に弱いーの3点の特性があります。16歳以上は免許不要(安全講習なし)でヘルメットは任意という状況になると、道交法の理解度が低く免許を持っていない自転車のみを使用しているユーザー(多くは高校生や若年層)の中の一定数が、電動キックボードに流入すると予測しています。その人たちが電動キックボードの特性を理解しないまま使用した場合、事故が起きるのは自明かと考えています。人が操縦するかぎり事故ゼロ実現は困難ですが、多少の工夫と努力で避けられる事故も今のままでは起きてしまうだろうと想像しています」

ー運転中に急ブレーキをかけるとつんのめって前に転がってしまいそうです

「多くの2輪タイプの電動キックボードは、前輪のタイヤ径が小さく、段差の乗り越え性評価を充分に行わないままで設計されているように見えます。カーブで倒しこんだ状態で少しハンドルを切り込むと、そこから勝手に切り込んでフロントタイヤが滑って転倒する、というモノもあったり、車両の運動特性の解析が不十分なまま製品化しているモノが多いです。当社は、過去の試作開発の中で、旋回性能と制動性能を充分に確保するには、前2輪でなくてはならない、という結論に至りました」

ーnoteでは「知り、学び、訓練する」と強調しています

「弊社の電動モビリティは、スポーツアクティビティ性が強いので、サーフィンやスキーのように、乗れるようになるまである程度の訓練が必要です。普通運転免許以上の資格者でないと運転できない車両です。ご購入いただくお客様へは、車両の特性をしっかりとご説明したうえで、試乗してから購入する事を進めています。ネットで何の説明なく購入、というケースはなるべく避ける努力をしています」

神戸市の実証実験では

電動キックボードのシェアサービスを展開するモビーライド(福岡市)と神戸市は、国の特例措置を活用した電動キックボードの実証実験を行いました。市職員が公道を走行し、都心部における活用可能性や課題を探りました。

市によると、95人が利用し総乗車回数は203回、総走行距離は348キロメートル、走行に伴う事故・違反はゼロでした。アンケートでは8割超が利便性を感じる一方、他の車両や路面状態について、注意が必要と感じたといいます。「ぼこぼこした道は影響を受けやすい」「路面が濡れている際は注意」「路上駐車を避ける際は注意が必要」という声が寄せられました。

フヂイエンヂニアリングの公式サイトでは、電動キックボード事業マネージャー、小林愛鐘さんが「電動キックボードとの付き合い方を考える」と題した長文を公開しています。

 ・「危険だからやめよう」ではなくて「危険だからきちんと勉強し、練習し、付き合い方を考えよう」
・きっと飛行機や自動車が登場した時も、「危険だ!」という声が多くあったのだと思います。先人たちの努力で、今ではこれらの交通デバイスはなくてはならないものになりました。
・動くものである以上は事故や故障は減らせたとしても、0にすることは困難でしょう。安全面の問題と天秤にかけ、それに勝る社会的メリットがあるのであれば、ルールを整備し、付き合い方を考えて導入していくべきです。
 ・電動キックボードは正しく活用すれば、日本の地方過疎化や高齢者問題に対して、大きな貢献をする可能性があります。
 ・私たちメーカーとしてもセーフティドライビング講座の開催や、情報発信、仕組みづくりなど、できることを考えていきたいと思っています。

 として、「皆さんも一緒にこの新しい交通デバイスとの付き合い方を考えませんか」と呼び掛けています。

 

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