ロシアのプーチン大統領は4月12日、東部アムール州でベラルーシのルカシェンコ大統領と会談し、ウクライナとベラルーシとロシアはひとつの民族であり、「ウクライナで起きていることは間違いなく、悲劇だが他に選択肢はなかった」と侵攻の意義を強調した。プーチン大統領が公にコメントするのは侵攻が始まった2月24日以来だが、ロシアの巡る対立の長期化はもう避けられないだろう。
ウクライナ各地では、両手を後ろに縛られながら撃たれて死亡した人など、多数の民間人とみられる遺体が見つかるっており、ロシアによる戦争犯罪がどんどん明るみになっている。これに対して、バイデン政権はロシアの最大手銀行ズベルバンクとアルファ銀行の2社に対する制裁拡大に踏み切るなどしている。
一方、岸田政権もロシアへの追加制裁に踏み切る方針で、日露関係のさらなる悪化は避けられそうにないが、岸田政権も既にそれを覚悟している様相である。
ロシア外務省は4月6日、日本の反ロシア的な行動には対して新たな対抗措置を取ると発表した。現在のところ、具体的な中身は明らかになっていないが、ロシア外務省は岸田政権が歴代政権の努力によって築かれた日露関係を根底から破壊していると強い不快感を示し、北方領土問題を含む日本との平和条約締結交渉を中断すると発表した。今回の件で北方領土の返還という問題は、これまでで最も遠のいたと言えるだろう。
北方領土は日本にとってはロシアとの領土紛争であるが、ロシアにとってはそれだけではなく安全保障上重要な位置を占める。軍事上、米国と対立するロシアにとって、北方領土は米国勢力圏の北への拡大を抑える要衝であり、仮に北方領土が日本に返還されれば、それは日米安保条約第5条が定める「米国の対日防衛義務の範囲」が択捉島まで北上することを意味する。
ウクライナ侵攻で米国とロシアの対立がこれまでになく高まった今日、プーチン政権にとっての北方領土の戦略的重要性は飛躍的に増している。プーチン大統領は3月9日、ロシアが実効支配する北方領土へ進出する企業に対して20年間に渡って税金を優遇する措置を盛り込む法案に署名した。また北方領土の国後島では3月30日、ロシアによる軍事訓練が実施され、根室からは照明弾らしき光が相次いで確認された。
ロシアと欧米日本の対立が激しくなればなるほど、ロシアは北方領土での軍事訓練などを強化し、日本に対して軍事的けん制を仕掛けてくることだろう。日本は中国の海洋進出に合わせ南方方面の防衛強化に努めているが、今後は北方方面での防衛力強化も重要性が増してくるだろう。
一方、日露経済の冷え込むも避けられない。ロシアによるウクライナ侵攻から1カ月半が過ぎるが、日本経済への影響も各方面から聞かれる。たとえば、ロシア上空が飛行できなくなったことで欧州と日本を結び直行便は中央アジアや北極海など迂回ルートを飛行し、通常より飛行時間が2時間から4時間ほど長くなり、燃油料がアップしている。また、カニやウニなどその多くをロシア産に依存する日本の水産業界は、ロシア産海産物の提供停止や値上げ、代替品獲得のため第3国への交渉などを余儀なくされている。
岸田政権はロシアに対する厳しい姿勢を堅持しているが、地域経済の衰退を懸念し、ロシア産水産物の禁輸は見送ることを決定した。しかし、ロシアが日本に対抗措置を実施する姿勢を鮮明にしたことで、今後はロシアが率先して日本向け水産物の輸出停止に踏み切る恐れがある。欧米とロシアの対立が深まれば深まるほど、ロシアは日本に対してあらゆる手段で対抗してくることだろう。