野良猫の溜まり場にいた猫
にぼしちゃん(2歳・オス)は愛媛県内で、あるアパートの住人が多頭飼育していたうちの1匹だった。飼育と言うと聞こえはいいが、家の中でペットとして飼っていたわけではなく、野良猫たちに気ままに餌を与えて、最後は猫たちを捨てたのだという。にぼしちゃんが暮らしていた地域には、野良猫に餌を与える人がいる一方、誰も不妊手術をしないので猫が増える一方だった。糞尿に悩む人からは煙たがられ、交通量の多い場所だったので事故で亡くなる猫も結構いた。
野良猫として暮らすようになったにぼしちゃんは2020年4月、自転車に乗っていた真鍋さんの前に突然飛び出してきた。その後、真鍋さんが車の下にいるにぼしちゃんを見つけ、持っていたにぼしを差し出すと食べてくれた。名前はそこに由来している。
気づけば家族に
コロナ禍、どこにも出かけることができなかった時期に、真鍋さんはにぼしちゃんの様子を見に行くのが楽しみの一つになった。「仕事終わり、休日、雨が強かった日など毎日様子を見に行くうちに、家族として迎えたいという気持ちが強くなりました」。にぼしちゃんに会いに行き、猫じゃらしを持って行ったり、いらなくなった服の裾を切って作ったおもちゃで遊んであげたりした。人に触られることに慣れさせて、抱っこの練習をして、捕獲するためケージに入れる練習をした。
「いつでも捕獲できるような信頼関係を築き、ペット可の物件の空室が出るまで待ちました。その年の8月、道端で暑さにうなだれているところを捕獲しました」
家では、はじめ夜通し鳴いていた。「夜寝られず、ずっとこのままだったらどうしようと思いました。でも、3日くらい経つとそれも収まりました」。トイレもすぐに覚え、壁を引っ掻くこともなく、本当に野良猫だったのかと疑うほどいい子だった。ただ、今も充電器などのコードを噛むのには困っているそうだ。
幸運を運んでくれた猫
真鍋さんは、にぼしちゃんを飼ってから、毎朝定時に起きられるようになった。「アラームが鳴ると起こしに来てくれます。たまにスマホの前に座って、アラームの鳴り待ちしていることもあります」。外出すると、「早く帰らなきゃ!」という気持ちになり、仕事にも精が出るようになった。「にぼしは唯一無二の存在」と言う真鍋さん。見た目も珍しい柄で、実家では犬を飼っていたため犬派だったが、犬とはまた違った魅力があると言う。
「言葉が通じなくても、落ち込んだ時にはそっとそばにいてくれたり、気づいたらピタッとくっついて寝てくれたり、こちらが注いだ愛情をそのまま返してくれているような気がしています」
野良猫が多く、ボス猫も強く、派閥争いで怪我をしている猫もいたまるでスラムのような地域から抜け出したにぼしちゃん。ペット可能なマンションに引っ越し、暖かいコタツというものを知った。さらに真鍋さんと一緒に東京に引っ越した後は、床暖房付きのマンションに住むことになった。
「サクセスストーリーを描いているみたいな猫だなと思います(笑)。でも、にぼしが幸運を運んでくれる猫だったのかもしれません。これからもにぼしが幸せで健康に過ごせるよう、愛情を注いでいきます」と真鍋さんは微笑みながらにぼしちゃんを見つめた。