「この子の目が見えているうちに、色んなものを一緒に見たい」…愛猫が「進行性網膜委縮」と診断されて

古川 諭香 古川 諭香

「正直、私はこぅちゃんを“障がいのある子”とは思っていないんです。見守りはしますが、意欲や可能性を奪うような気がするので、先回りして手を貸すことはしません」

そう語るのは現在3匹の愛猫と暮らす、ねぇたん(@okan04one)さん。愛猫こぅあくん(通称:こぅちゃん)は、猫には稀だといわれている「進行性網膜委縮」を発症。

1歳になる前から少しずつ視力を失ってきましたが、ねぇたんさんにとっては障がいの有無など関係なく、愛しい我が子。

「こぅちゃんと暮らしていると、自分ができないことの理由探しにばかり時間を費やしてきたと気づかされるんです」

馴染みの野良猫が産んだ子猫を家族に迎えて

こぅちゃんは、馴染みの野良猫が産んだ子。「自分で動けるようになった頃、母猫が我が家の裏口に連れてきてくれ、対面しました」

大人猫たちに交じって走り回る活発なこぅちゃんと初めて目が合った時、ねぇたんさんはあまりにもまっすぐ自分を見つめてくれる瞳の美しさに、泣きそうになりました。

それから、しばらく経った、ある夏の日。いつもとは違い、元気がないこぅちゃんを心配したねぇたんさんは、動物病院へ。「鼻水が出ていて、熱もありました。治療してもらいましたが、まだ小さいので油断はできないと言われたんです」

お母さんにゃんこには申し訳ないけれど、この子は我が家に迎えよう。そう決意し、ねぇたんさんはこぅちゃんと家族になりました。

「ちなみに、母猫や仲間の猫たちは、その後、地域の方々やボランティアさんの力を借り、さくら猫(地域猫)になりました。みんなに見守られ、大切に愛でられています」

「進行性網膜委縮」が判明 半年から1年で失明すると宣告された

ねぇたんさんは朝イチで病院へ行き、その後、こぅちゃんを連れて出勤し、一緒に帰宅するという生活を送るように。病院通いは、約4カ月間続きました。

当時、自宅には4匹の猫がいましたが、みな最初は珍しそうに眺めていたものの、すんなりこぅちゃんを受け入れてくれ、一緒に遊ぶように。ねぇたんさんはよく遊び、よく食べ、よく眠るようになってくれたこぅちゃんを微笑ましく見守っていました。

しかし、翌年の春。こぅちゃんに異変が…。明るい場所にいても瞳孔が大きく、横方向の眼振がみられたのです。

すぐに動物病院へ行くと、網膜にあるはずの血管がないことが判明。眼科専門病院を紹介され、そこで告げられたのは遺伝性・先天性の「進行性網膜委縮」を患っているという事実。

「進行性網膜委縮」は網膜が徐々に薄くなり、視力が低下し、失明の可能性もある病気。この病気自体、猫が発症するのは珍しく、ましてや、若くしてこぅちゃんのような症状であることは稀だと獣医師に言われました。

10のうち、2しか見えていない―。ねぇたんさんは獣医師から、そう聞かされれても、すぐに状況を受け入れることはできなかったそう。「何を言ってはるんやろって。だって、おもちゃを追いかけてるやん。まだ、1歳にもなってないんやで…と。でも、半年から1年で失明すると宣言されたので、次第に、落ち込んでいる時間なんてない、私が足を止めたらあかんと思うようになりました」

この子の目が見えるうちに、色々なものを一緒に見たい。そんな気持ちになったねぇたんさんは受け入れがたい現実と向き合う勇気を持ち、こぅちゃんの病気を直視するように。

「現段階では、視力回復のための治療法はありません。網膜が細くなることで錆が生じ、いずれ白内障や緑内障になると言われています。今は若くて抗酸化作用が働いているため、異常はありませんが、状況確認のために定期健診を受けています」

ただ、嬉しいことに、失明宣告から1年以上経った今も、こぅちゃんの瞳は光を感じ続けているのだそう。

「でも、もし、家族になる前に近い将来、失明しますよと言われていたとしても、私は家族になり、抱き締めていたと思います」

今日をとことん生き、「愛猫と生きられる今」を大切にしたい

病気を患った猫には、「かわいそう」という視線が向けられることも多いもの。しかし、こぅちゃんはできることを楽しみ、ねぇたんさんの温もりを感じながら穏やかな日々を送っています。

「我が家ではドライフードを小さな瓶に入れているのですが、こぅちゃんは1年くらい前から瓶を転がして蓋を開けます。いつの間に、習得したのかな(笑)」

夜は、ねぇたんさんの顔を枕にし、抱き着くような恰好で一緒にすやすや。

「その姿が、本当にかわいい。スースー聞こえる寝息もかわいく、愛おしくて。ちなみに、体が温まってくると遠慮なく、大の字になります(笑)」

同居猫のまろちゃんと、はるちゃんとの仲も良好。2匹にとって、こうちゃんは年の離れた弟です。

「まろとはるがくっついて眠ることはありませんが、2匹ともこぅちゃんはOKみたい。見ている私が恥ずかしくなるくらい、イチャイチャしています」

ねぇたんさんはこぅちゃんが戸惑ったり、ストレスを感じたりしないよう、自宅の模様替えはせず、こぅちゃんが記憶しているままの配置を維持。「あとは、声をかけてから触れるようにしていますが、これはよく考えてみれば、こぅちゃんだけでなく、相手に対してのマナーのひとつですよね」

そう話すねぇたんさんは、こぅちゃんから他者への接し方を見つめなおす機会を貰ったと思ってもいます。

 

「誰かと接する時、“これくらいで分かるだろう”で済ませていないかと考えさせられました。こぅちゃんは私にとって、大切な息子です」

「この子と共に生きられる」という、目の前にある幸せを大切にしよう。ねぇたんさんが心からそう思うのは初めて共に暮らした猫を天国へ送り出した時、終わりは必ずやってくるのだと痛感したから。

「失う怖さは、避けられない。けれど、それがいつになるかは分かりませんし、怖さがあるから今ある幸せに目を向けられたり、愛猫たちの命や共に過ごせる時間を尊く思えたりするのだと感じました。だから、私は“今日をとことん”を心がけ、我が子たちへの大好きの想いも、とことん伝えるようにしています」

猫は、最高で最幸のセラピスト。そう言いながら微笑むねぇたんさんの笑顔は、こぅちゃんの心の瞳にも届いているような気がします。

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