必死に威嚇する子猫、徐々に慣れたと思ったら…髄膜脳炎で救急入院 後遺症は残ったが、今は元気いっぱいのやんちゃ猫に

木村 遼 木村 遼

 兵庫県西宮市在住のHさん夫婦は現在、5匹の猫に囲まれて、楽しく暮らしているが、そこに至るまでには数々の修羅場があった。

 「駐輪場の近くで2カ月くらいの子猫を見つけたよ」

 最寄りのショッピングセンターに買い物に出掛けたHさんのスマホに、夫からのこんな連絡が入ったのは2021年6月のことだった。夫の話では発見場所の近くに親猫は見当たらず、子猫は1匹でいるとのこと。交通量が多い場所だったため、大がつくほどの猫好きの2人は「このまま置き去りにすると、いずれ車に轢かれてしまう」と心配になり、保護することにしたのだという。

 Hさんは家に戻り、猫用のキャリーケースを持って、大急ぎで夫と合流した。すると、子猫は商業施設の敷地内にあるコンクリートブロックの土管の中で、震えてうずくまっていた。

 「独りぼっちでかわいそうに…」

 警備員に事情を説明し、関係者に許可を取った上で捕獲しようと試みた。幸い、警備員はとても協力的で、土管の片側から警備員が網を持って追い込み、もう片側をHさんたちがキャリーケースで塞ぎ、子猫が中に入るよう誘導した。待つこと、なんと2時間。ついに子猫が動き出し、無事にキャリーケースに入ると、全員で喜びを分かち合った。

 「やった!良かったー!」

 無事に子猫を保護することができ、緊張が解けてほっと胸をなでおろした。キャリーケースの中を覗くと、子猫は片手に収まるほどの大きさで、薄汚れており、か弱い印象だったそうだ。

 「もう大丈夫だよ」

 Hさんは、優しく声を掛けると、近くの動物病院に急いで連れて行った。子猫は生後1カ月半ほど。風邪を引いており、くしゃみで鼻水がズルズルとでていた。それでも「ウー!シャー!」と必死に威嚇。手を近づけようものなら、本気の猫パンチが飛んできた。そのあまりの激しさに獣医師から「もう少し慣れてから診察に来てください」と言われ、一行はしぶしぶ病院を後にした。

 風邪を引いているので心配だったが、こんなに威嚇をしている猫と触れ合うのは初めてだったため、どう対処していいか分からず、当団体に相談が入った。Hさんと当団体は縁があり、過去に1匹の里親になってくれていた。そこで、私たちは野良猫の扱いに慣れている動物病院を紹介させてもらった。

 伊丹市にあるその病院で診察してもらうと、あれだけ威嚇していた子猫が嘘のように大人しくなった。まるで借りてきた猫。気持ち良さそう獣医師に抱かれ、最後はノミやダニを駆虫してもらい、風邪薬をもらって帰路に就いた。

 もっとも、子猫は夜になると親猫を呼んでいるのか「ニャーニャー」と、一晩中か細い声で鳴いていたそうだ。幸いにも食欲はあり、警戒しながらもたくさん食べ、少しずつ元気を取り戻していった。しかし、まだ威嚇や猫パンチは続いていた。人に慣れてもらうため、手を怪我しないように軍手をして撫でたり、声を掛けてみた。すると徐々に落ち着きが出て、1週間ほどすると猫じゃらしで遊んだり、人の体によじ登ってきたりするようになった。

 子猫の名前をバロン。「耳をすませば」というアニメに出てくる猫人形の名前からとった。「キャラクターと同じように紳士的な猫になってほしいと願って名付けましたが、いまとなっては真逆の性格になってしまいました」と、Hさんは少し困った顔で笑った。

 やがて風邪も完治し、ウイルス検査も終えたバロンは先住猫と顔合わせをすることになった。しかし、どこかぎこちない。毎日時間を決めて対面させ、少しずつ慣らしていくと、1カ月ほどしてようやくバロンは先住猫たちになじめるようになっていったという。

 しかし、ほっとしたのも束の間、ある事件が起きた。ある朝、前日まで元気だったバロンはぐったりとうずくまったまま。息が荒く、黒目は眼振し体は痙攣しており、いまにも死にそうな状態だった。

 「バロンの様子がおかしい!」

 Hさんは慌てふためき、すぐに近くの動物病院に連れていったが、残念ながら「原因がわからない」とのことで、そのまま帰されてしまったそうだ。そんな理不尽な話をHさんから聞かされた当団体は動物の高度医療病院を紹介させてもらった。すぐに受診してもらうと、高熱が出ており、髄膜脳炎との診断が下った。

 その日からバロンは緊急入院し、ICUへ。原因が分かり、入院する事ができて少し安心したが、小さな体にチューブが繋がれている姿見て、胸が痛くなったという。

 Hさんは「1日も早く回復して元気になって欲しい」と、ひたすら祈った。そのかいあってバロンの体調は順調に回復。2週間ほどの入院生活を経て、元気に退院することができた。幸い、命に別状はなかったが、左傾斜という障害が残った。顔が左に少し傾いている状態だ。

 Hさん宅にはこのとき、既に先住猫が4匹いたので、本当はバロンが人に慣れたら里親を探す予定だったのだという。しかし、障害が残っていること、今後また具合が悪くなる可能性を考え、このまま家族に迎え入れる事となった。

 山あり谷ありだったバロンを保護した時のことを振り返り、Hさんはこう話す。

 「猫は具合が悪くなっても話をすることができないので、いかに飼い主が日頃から様子を気にかけ、いち早く異変を察知してあげることが重要です。そのことを今回、特に痛感しました。

 そして、病院にも特色があり、病気や猫の状態によって、使い分ける必要があるということを学びました。猫と一緒に暮らすことは、責任を持って命を預かるという意味では大変なことが多いです。ですが、その分、猫は私たちに癒しを与え、しんどい時や辛い時でも笑顔にしてくれる存在です。だからこそ家族の一員として、大事に育てていきたいと考えています」

 現在、バロンは遊び盛り。先住猫が寝ているところに飛び込んでいったり、ご飯を奪ったりといつの間にか中心的存在となっている。Hさんも5匹に増えた猫たちのお世話は大変と言いつつ、笑いの絶えない日々を過ごしている。

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