移り変わる街を見守り続け95年…昭和の風情たっぷり「精肉店」が閉店 京都・三条駅前、道路整備の立ち退きで

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 京阪電鉄三条駅東側にある創業95年の精肉店「キヨタ精肉店」(京都市東山区)が2月末で閉店した。駅前に旅館や食堂が並び、今よりにぎわっていた昭和の時代の風情を残す数少ない店の一つだが、市の道路整備に伴い立ち退くことになった。常連客に惜しまれつつ幕を閉じる。

 同店は、4代目店主菅原佳子さん(64)の祖父清田房治郎さんが1927(昭和2)年に創業した。京阪本線の終着駅(当時)で、大津・琵琶湖方面への乗換駅でもある三条駅前には戦後、土産物店などが多く並び、通勤客や観光客が行き交った。

 食肉卸を兼ねていたキヨタ精肉店は、高品質の肉が安く買える店として繁盛。高度成長期、一番の売れ筋はすき焼き用の牛肉だったという。67年間勤める職人高橋健一さん(86)は「大阪万博(1970年)の頃は、えろう忙しかった。仕事帰りに買って行くサラリーマンも多かったし、旅館にも卸していた」と振り返る。

 菅原さんの母親の代になって卸業はやめたが、食の多様化に対応して牛豚のばら肉やスジ肉、焼き豚の取り扱いを増やしたり、手作りのビーフジャーキーやハンバーグ種の販売を始めたりして客の心をつかんできた。

 近くの近馬栄子さん(69)は「義父の代から通っており、孫も焼き豚が大好き。昔の雰囲気を残す店がなくなるのは寂しい」と肩を落とす。

 店の敷地は市の道路整備事業の対象で、菅原さんは立ち退きを機に閉店を決めた。「祖父と父と母が頑張って残してくれたお店。長年支えてくれたお客さんの顔が次々と浮かび、感謝しかない」と思い出の詰まった店内を見つめた。

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