「本当に大好きでした。おいしかった。ありがとう」―。創業から100年以上地域に愛された和菓子店「初田餅菓子店」(滋賀県大津市膳所2丁目)が、店を切り盛りしていた女性店主の高齢などを受けて1月末、閉店した。約1カ月間軒先に貼られた「閉店のお知らせ」には、別れを惜しむ住民らのメッセージが30以上寄せられ、店主が大切に保存している。
同店は1912(明治45)年に創業。いちご大福やおはぎ、どら焼きなどさまざまな和菓子を提供し、地域住民や膳所高の生徒、周辺の史跡を訪れる観光客らに親しまれてきた。
初田千榮子さん(90)が店に嫁いだのは66年前。夫を40代で亡くして以降、夫の両親らと切り盛りし、その後は長年1人で店を守ってきた。
しかし、近年は大型スーパーの進出などで客が減り、かつてのように和菓子が売れなくなっていたという。さらに新型コロナウイルス禍が拍車を掛け、自身も90代を迎えたことから、閉店を決意した。「いい潮時だと思った」という。
昨年12月に「閉店のお知らせ」を貼ったところ、日ごとにメッセージが増えていき、寄せ書きのようになった。「どれもとてもおいしく、いつもよい思い出になりました」「割引してくれてうれしかった」「長い間お疲れさまでした。寂しいけれどゆっくり休んでください」―。時代の流れで商いが厳しくなる中でも応援してくれた客の心のこもった言葉が並ぶ。
「メッセージが寄せられるとは思っていなかった。本当にありがたい」。長年使い続けた製餡機と製餅機を見つめ、初田さんは柔らかな表情を浮かべた。