ロマネスク様式の美しい正門をもつ明治の名建築・旧奈良監獄を見学 将来はホテルとして活用

脈 脈子 脈 脈子

 罪を犯した者を収容する刑務所・少年刑務所・拘置所などの刑事施設のうち、刑務所は全国46の各都道府県に1つ以上存在します。

 「いやいや、日本の都道府県は47でしょ」と思われましたか?これは、刑務所を持たない県が日本にたった1つあることを示しています。

 その県とは奈良県。1908年から2017年まで使用された奈良少年刑務所(旧奈良監獄・旧奈良刑務所)が閉鎖されたことで、奈良県は稼働している刑務所がない唯一の自治体となりました。

 旧奈良監獄は、近代国家として人権に配慮した収監施設を作る目的で、明治時代に建てられました。ロマネスク様式の美しい正門は、近くにあったテーマパークと間違えて入ってくる人もいたとか。

 2017年には歴史的価値が評価され、国の重要文化財に指定されたことで閉鎖後の保存が決定。刑務所としての役割を終えた後には時折、見学会が開催されていましたが、新たな試みとして、ここで勤務していた元刑務官によるガイドツアーが始まりました。

刑務官たちが見た日常

 この日ガイドを担当したのは、1983年に着任し、2017年の閉鎖も見届けた元奈良少年刑務所刑務官。最初の2年ほどは、刑務所の日常生活全般に関わる処遇部門で所内の見回りや面会の連行業務などを担当し、会計課に配属された20代半ば以降は、入・出所時の荷物点検や面会者からの差入金に関する業務を通じて、10数年以上に渡って受刑者と接していました。

 また受刑者にとっての余暇活動にあたるクラブ活動では卓球部を担当。自ら練習メニューを組み、所内の小体育館で、指導にあたっていたといいます。

 さまざまな立場で受刑者と関わってきた刑務官を通して見る旧奈良監獄。中庭と事務棟を抜けた一行を迎えるのは、収容棟の中央看守所です。手を広げたように5本の舎房が放射状に配置された「ハビランド・システム」と呼ばれる仕組み。中央に位置する看守台に立てば、すべての舎房を見渡せるように工夫されています。

 旧奈良監獄の独居房は4.7平方メートル、およそ3畳ほどの広さです。ツアーでは、実際に1人で独居房に入り、外から頑丈な鍵をかけられる収監体験も。元刑務官の手で、大きな錠前が下ろされ鍵がかけられると、悲鳴にも似た歓声が上がります。密閉度の高そうな、ぶ厚い木の扉の向こうに閉じ込められる様子は、見ているだけでドキドキしてしまいました。

 また、今までは見学できなかった刑務官の宿直室や炊事場などがあった地下エリアが初めて公開されました。正月には、受刑者が炊事場で餅を作っていたんだとか。刑務所にも季節のイベントが存在したなんて意外でしたが、これも、協調性や公平性などを学ぶ矯正教育の一環だとガイドの説明を聞き、納得。少年たちの更生を心から願い、社会復帰への道を共に歩んだ刑務官たちの姿が、ツアーを通して感じられました。

老若男女、監獄を巡る

 この日のツアーには、建築設計の仕事に携わる男性や、旧奈良監獄がロケ地として使われた映画のファンだという女性2人組、関東からこのために来たというご夫婦、さらには80代と思われる女性など、年代も興味もまったく異なる参加者が集まっていたのが印象的でした。

 明治の名建築として、映画のロケ地として、さまざまな顔と魅力を持つ旧奈良監獄。元刑務官たちが伝える当時の風景は、さまざまな興味を入り口にしてやってきた参加者の心に届いていると感じました。

 ツアーではこのほか、医療棟、実習場、クラブ活動の成果発表の場として使われた屋外舞台、規律違反をした収監者を一時的に収容するための懲罰房である「重屏禁房」などを見学をすることもでき、監獄施設をくまなく知ることができます。 

 次回のツアーは3月25日(金)から、週末を中心に開催予定とのこと。募集状況などの最新情報は、ツアーを主催する旅行会社クラブツーリズムの旧奈良監獄スペシャルサイトでご確認を。

 なお、旧奈良監獄は、近い将来ホテルとして活用されることが決まっています。フィンランドのベスト・ウェスタン・プレミア・ホテル・カタヤノッカなど、欧米ではすでに古い監獄をホテルとして利用している例があるとのこと。ここがどんなホテルに生まれ変わるのか、楽しみです。

 独居房を客室にするなら、ぜひとも、鍵は室内側に付け替えてほしいですね。

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▼クラブツーリズム 旧奈良監獄スペシャルサイト
https://www.club-t.com/sp/special/japan/narakangoku/?waad=aONCpDAu

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