大けがの子猫を助けた犬派の社長「暗くて狭い場所が好きなんだ…」→強化段ボール製ハウスを商品化だニャ

西松 宏 西松 宏

 包装資材を扱う大分県別府市の「(有)谷口紙業」(谷口隆史代表)が開発した強化段ボール製キャットハウスが猫好きの間で話題を呼んでいる。「にゃんボール」と呼ばれるシリーズは現在、全部で13種類あり、そのうちの「にゃんボールクラッシュ」が昨年(2021年)10月の福岡デザインアワードで銀賞を受賞。猫が爪研ぎをしてもカスが出にくいうえ、部屋のインテリアにもなる。会社前で倒れていた猫を保護したことと、その後のコロナ禍による減収が開発のきっかけだったという。

 2019年夏、一匹の子猫が同社前に横たわっていた。車にひかれたのか、頭から血を流し、ほとんど動かない。谷口隆史社長(46)が見つけ、すぐに動物病院へ運びこんで治療を受けた。

「その日は土曜日でふだんは休みなのですが、たまたま月1度の会議があり、子猫が倒れているのに気づいたんです。その後、自宅で引き取り、看病を続けていたら奇跡的な回復をとげ、次第に歩けるくらいまで元気になりました。それで我が家の一員になったんです」(谷口さん)

 谷口さんは長年チワワを飼っていて犬派。それまで猫とは縁がなかった。子猫を「マリン」(メス、2歳)と名づけ、猫の習性を学んだり猫グッズなどを探したりしているうちに、猫は段ボールが大好きということに気付く。爪を研いだり、その中に入っていくからだ。

 同社は1960年の創業以来、紙容器やビニール袋などの包装紙材卸として地元に密着した事業を展開してきた。段ボールは梱包後、廃棄されることが多く、谷口さんは何か有効活用策はないだろうかと常々思っていた。子猫を飼いはじめたのをきっかけに「段ボールで猫が快適に過ごせるキャットハウスが作れないか」とひらめき、それから段ボールメーカーとやりとりするなどして開発を試みたが、そのときは納得できるものが作れなかった。

 その後、新型コロナウイルス感染が拡大すると、湯のまち・別府の観光客も激減。土産用の箱や袋などを扱ってきた同社だが、それらの需要も減り、一時は売上が半減する月もあったという。コロナ禍で営業活動もできず、どうしたものかと思い悩んでいたとき、思い出したのが開発途中だった段ボールキャットハウスだった。

「当初はボックス型でユーザーが組み立てられるものを考えていたのですが、普通の段ボールだと強度が低かったんです。そこでいろいろと試行錯誤をした結果、強化段ボールを重ね合わせれば、頑丈なハウスができると分かり、デザイン性に優れ、最も難易度の高い球体型のハウスにまずは挑戦してみようと」(同)

 段ボールのカッティングマシンを導入し、食品用の箱に使用され、猫にも安全なのり(接着剤)を用いて、職人が手作業でカットされた段ボールを貼り合わせる。そうして完成したのが「にゃんボール」だ。自社ブランド「ハコクラ」を立ち上げ、昨年7月からオンラインショップでフォルムの違う5種類の販売を始めた。

 段ボールは通気性に優れ、冬は暖かく夏は涼しい。猫は狭い所、暗い所が大好きだ。「気に入ってなかなか外に出てこなくなる猫ちゃんが多いです(笑)」と谷口さん。強化ダンボールは芯が硬いため、「猫がハウスのどこで爪を研いだとしてもカスが出にくい」(同)のも嬉しい。

 昨年2月、マリン1匹では寂しいだろうと、谷口さんは近所で保護された赤ちゃん猫4匹のうちの1匹を譲り受け、「そら」(オス、1歳)と命名。「4匹のうち3匹は近づくとシャーと威嚇したのに、そらだけはすごく人なつこくて。一目惚れでした」(同)。マリンともすぐに仲良くなった。

 そらはいま体重4.6キロに成長。「標準的な猫の大きさになり、好奇心も旺盛なので、試作したキャットハウス全部に自ら入って、居心地を試してくれています。開発には欠かせない存在になっていますね」と谷口さんはほほ笑む。

 昨年10月、福岡県と同県産業デザイン協議会が主催する「福岡デザインアワード2021」では、にゃんボールシリーズの一つで上面にくぼみがある「にゃんボールクラッシュ」が銀賞を受賞。キャットハウスとしての造形性、爪研ぎやインテリアにも使える機能性だけでなく、再生資源である段ボールを用いた点や、製造過程で出た端材もリサイクルに回せる点などが高い評価を受けたそうだ。

 中をくり抜いたときに出る端材は、のりで貼って組み合わせると猫用の爪研ぎが簡単に作れたり、子どもたちの遊び道具として活用できたりするため、同社では保護猫団体や幼稚園に端材を無償提供している。

「もし猫との出会いがなかったら、キャットハウスを作ろうなんて思いもよらなかったと思います」と振り返る谷口さん。「今後は、にゃんボールで培った段ボール製作の技術や経験を活かして、より使い勝手のいい防災用簡易トイレや、軽々と持てるキャンプ用テーブル、椅子など、SDGsの考えに沿った新たな商品を開発していきたいと思っています」と夢を膨らませている。

(有)谷口紙業のホームページは、https://taniguchishigyou.com 

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