校庭隅の黒いぶよぶよはスーパーフードだった!抗がん、コレステロール抑制効果も…気になる味は?研究者に聞いた

竹内 章 竹内 章

雨上がりの駐車場や校庭の隅っこにある黒いぶよぶよの正体が、ビニール袋ではなく、ラン藻類のイシクラゲと教わり、しかも食べられることも分かった先日の取材。長年の疑問が解けてすっきりした一方、記事への反応を見ていると、あのぶよぶよを食べたことがあるというユーザーが少なくないことに驚きました。おひたし、炒めもの、それともサラダ。食の面からイシクラゲの可能性を追究する研究者に会いに行きました。

龍谷大学瀬田キャンパス(大津市)。農学部資源生物科学科講師の玉井鉄宗講師(植物栄養学)の研究室の前には研究テーマが張り出されています。そのひとつに、伊吹山地の姉川流域でかつて食習慣のあったイシクラゲ、通称姉川クラゲの復活があります。

玉井講師によると、イシクラゲをめぐるこれまでの研究では抗ウイルス、抗菌、抗酸化、抗炎症、抗ガン作用などの特性があり、動物実験では血中コレステロールの上昇抑制が確認されているそうです。栽培には肥料要らずで労力もあまりかかりません。農業従事者が減り耕作放棄地が増えた地域で、安全かつ安定した人工的栽培が可能になれば、収益性の高い農作物としての期待も大。まさにスーパーフードです。

見た目で損をしているものの、同じ仲間には川海苔の一種として珍重されるアシツキや、中国で珍味として知られる髪菜(はっさい)などがあり、意外と食材としても用いられています。沖縄・宮古島では、イシクラゲがオカノリという名前で1パック200円で売られており、炒め物や汁物として食されています。スーパーに並ぶ日も近いかも…。玉井講師に尋ねました。

 ―イシクラゲ、どんな味ですか

「食材としては無味無臭です。でも、空き地や駐車場に生えているものは食べない方がいいですよ」

―えっ…ネットには「食べた」自慢してる人がいました

「イシクラゲは栄養のない場所でも光合成や大気中の窒素を栄養源にして繁殖し、乾燥状態などさまざまな環境変化にも耐える生命力を秘めている一方、除草剤にも簡単に枯れず、紫外線や重金属への耐性があります。福島第一原発事故の後、放射性物質を蓄積できるイシクラゲが汚染土壌の浄化に役立つことが示された研究もあります。有害な物質を体内にためこむことができるので、安全・清潔な場所以外のイシクラゲを食べることはおすすめできません」

玉井講師らの姉川クラゲ研究班が、地元の古老から聞き取ったところ、姉川の上流域では戦前、春の訪れとともに、山に分け入って採取。天ぷらや酢の物、あえ物にして食べたり、保存食にもしたそうです。石灰岩の土壌で稲作や畑作には不向きという厳しい環境の中、キノコや山菜と同じように「救荒食」として、この食文化が生まれたとみられます。なお宮古島もサンゴ由来の石灰質の土壌であることから、イシクラゲと石灰岩の関連も考えられます。

これまでの食用イシクラゲの栽培研究では、イシクラゲが好む環境は、アルカリ性の土壌▽カルシウムが多く窒素が少ない▽日当たりがよいーことがわかってきました。栽培には水を大量に必要としますが、水道水を使うと失敗したことから、水道水に含まれる塩素に弱いことが考えられるといいます。今のところ、自然の湧き水が大量に使える場所がイシクラゲにとって最適な環境といえそうです。

ー強い耐性があるのに育てるとなると繊細な一面もあります

「実験室ではさまざまな条件を試しながら生育速度の差を調べ、それを踏まえ、屋外の圃場で試験栽培しています。伊吹山地ならどこでも育っているわけではありません。自生地の環境を踏まえ、ベストな条件を見つけたいですね」

ー消費者の口に入るのは

「2020年2月に、姉川クラゲの粉末を練りこんだそばの試食会を開きました。見た目は普通の蕎麦と変わらず、食感はツルツルとコシの良いそばで好評でした。2022年は滋賀県内の料亭に試験的に食材提供し、イシクラゲを生かした和食というステップに進みます」

機能性食品や化粧品素材としての可能性も秘めるイシクラゲ。栽培研究の進展が要注目です。

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