バブルから平成、伝説のAV女優は今 消せない過去も「後悔したくはない」“女神”たちが語る未来

広畑 千春 広畑 千春

 昭和後期のバブル全盛の時代から平成にかけ、多くのAV女優たちが活躍した。まだインターネットも今のように発達しておらず、お色気番組も全盛だった時代、紛れもない“女神”だった女優たち。時は流れ、AV女優がアイドル化し多方面に活躍の場を広げる一方で、ネットには動画が氾濫し、使い捨てにされる女性も少なくない。女優たちのセカンドキャリアは、家族は。女神たちはなぜその道を選び、今、何を思うのだろう。

 10月27日に発売された「伝説のAV女優」(彩図社)。著者で、文筆家の寺井広樹さんは「苦しい時もつらい時も嬉しい時も、女神たちに救われてきた」と話す。本では、世界で初めてアダルトDVDをリリースし、総売上枚数100万枚超という小室友里さんを始め、サザンオールスターズの「女神達への情歌」のMVでヒロインを務めた松本まりなさんのほか、夕樹舞子さん、沙羅樹さん、瞳リョウさん、矢沢ようこさんの6人にインタビュー。また、AV監督の藤井智憲さんとのインタビューのほか、森下くるみさんも寄稿した。

お茶くみだけで月給500万 現場では大切にされたが、同窓会では「売春婦が来た」

 バブル期といえば、まだネットも普及しておらず、ビデオやDVDは借りるか買うかするしかなかった時代。沙羅さんは「1つの作品を撮ると1億円ぐらいの売り上げがあった」と振り返り「お茶くみだけで月給500万円という時代もあった」と話す。鬼才・村西とおる監督とともに一世を風靡したが、当時は女優生命も1~2年と短く「1本でもスターになれた。(多すぎると)神秘性がなくなっちゃう。今は大変」とも。

 飯島愛さんら、芸能界に進出する人も出始め、深夜のお色気番組も高い視聴率を誇った。松本さんはサザンのMVのほか、人気深夜番組「タモリ倶楽部」のオープニングや人気バラエティー番組のお色気シーンにも出演。AV撮影は疑似で、監督もスタッフも大切に扱ってくれたという。ただ、周囲の視線は冷たかった。同窓会では「AV女優が来たぞ、売春婦が来たぞって。(中略)。でも、人がどう思うのかは勝手。私は楽しんでやってるし、後悔もしてない。他人に何言われようが別に構わないっていう気持ちが常にありますね」と語る。

「自分の心を大切にするのよ!」母からの手紙

 家族との関係も、複雑だ。デビュー前から親公認だったり、社長や監督が直接家を訪れて家族を説得してくれたりする人もいたが、隠れて始める人も少なくない。職場で誘われ、借金を背負った親を少しでも助けたい思いもあってAVに出たという瞳さんは、撮影が終わった帰りの車で泣き崩れた。だが、サスペンスドラマの温泉シーンをきっかけに家族にバレ、修羅場に。母からは「あなたともっと遊んであげれば良かった」と後悔と謝罪とともに「来る日も来る日もあなたの夢ばかり見ます。自分の心を大切にするのよ!」という手紙が届いた。

 罪悪感と無力感にさいなまれながらも、それでも「生半可な気持ちで仕事をしているんじゃない。犯罪をしているわけでもないのに、AV女優という肩書が一生消えないんだな、と分かって、それならやり切るしかないと思った」と瞳さん。結婚を前提に付き合っていた男性もその過去を受け入れられず離れていったが、引退後に勤めていた店でも、自分の名前や存在を覚えてくれていたお客のために、復帰を決意。テレビ番組などにも出演した。

セカンドキャリア、夢、そして

 海賊版を機に、中国を始めアジア全土で爆発的な人気を誇り、大物芸能人との噂がスポーツ紙を賑わせた夕樹さん。誰でもかつての作品にアクセスできる現状に「作品は好きに見てくれたらいい」と答えつつ「やっぱり女優さん、監督や脚本家などのスタッフにも、売れた分のロイヤリティを払うべきだと思う」と夕樹さん。

 そして小室さんは、経験を生かして婚活サークルやスタイリストらと連携し、男女のコミュニケーション専門家として「男性をより輝かせる」事業に取り組む。男性目線で作られたAVを教科書にしてしまうがために、交際やセックスが上手くできないと悩む男性は多いといい、「今の活動は罪滅ぼし的な気持ちも」と小室さん。「愛はポルノではない、ということをAVを通じて伝え、将来TEDに出られたら」と夢を語る。

 フリーライターを経て現在は作家としても活動する森下さんも「昔々、私は誰しもが、AV(非現実)」と「実生活(現実)」の区別くらいつくと思った。(中略)ハードなプレイが秒単位でネット検索できる現在、特に未成年などは、虚構に対して明確な線引きができるのか疑わしい」と指摘。「AVへの偏見問題は、版元であるメーカーや所属事務所がすべき。ひとりひとりの事情は違う。若い人たちは過度な期待をしないで」と訴える。

 自ら選んだ道だからこそ、後悔はしたくない。その道のりは当時も今も未来も、なだらかではないとしても。「レジェンドは、色褪せない」と著者の寺井さん。本に差し込まれた女神たちは、凜とした笑顔をたたえ、読む人に訴えかけている。

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